こんな本、あんな本








   





1.放課後泥棒(子どもは群れて育つんや)
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:森末哲朗・どんぐりクラブ(六甲学童保育所)指導員

■発行所:雲母(きらら)書房

■発行日:2001年6月5日

■1600円+税
同じ神戸市灘区の住人・森末さんの本。本の副題通りのことを実践している人です。

いつもジーパンなのに、この間は「似合わないスーツとネクタイ」(本人の弁)で、出版記念の飲み会が開かれました。

私の子どもも、学童保育(たつのこクラブ)で育ちましたが、クラブ立ち上げの時から、石本百合子さん(元.鶴甲学童保育指導員)と森末さんには特にお世話になりました。

奥さんの久子さんも、脳性麻痺の後藤義文さんを支えるボランティアの姉御として学生たちを差配しています。




2.敗北を抱きしめて(第二次大戦後の日本人)
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:ジョン・ダワー(訳:三浦陽一・高杉忠明・田代泰子)

■発行所:岩波書房

■発行日:2001年5月30日
■上・下2巻各2200円+税
墓参で帰省した折りに。上下併せて900頁ほどあり、けっこうなボリューム。

「ふりかえれば、近代日本の登場はアメリカの軍艦とともに始まり、アメリカの軍艦とともに終わった93年間の夢のようであった」「1930年代初期から1952年までずっと、日本は基本的に軍事支配の下にあった」「天皇制民主主義」など多くの示唆に富む分析があります。

無いものネダリ:@GHQウイロビー少将、キャノン機関などが果たした役割、A職業軍人が再軍備の中で果たした役割、B総評誕生に代表される労働運動と社会党の変化など、総じて朝鮮戦争前後が欠落しています。




3.真空管の伝説
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:木村哲人

■発行所:筑摩書房(ちくまプリマーブックス)

■発行日:2001年5月25日

■1200円+税
なにを隠そう、私もラジオ少年でした。始まりは自分で作った鉱石ラジオで、そして真空管ラジオ作り。

しかし、まもなく携帯ラジオに始まる「真空管駆逐の時代」を一緒に生きてきました。
 今でも、雑音が出るとドズイテ直すラジオがとても懐かしいのです。

「陸軍の無線嫌い、海軍の無線好き」や、スパイで有名なゾルゲの無線送信機が実は「安物ラジオ」の改造品だったなど、おもしろい話を満載しています。

デジタル時代が進めば進むほど、一方で真空管アンプやレコードの復活と、世の中捨てたものではありません。




4.市場原理に揺れるアメリカの医療
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:李 啓充・ハーバート大学医学部助教授

■発行所:医学書院

■発行日:1998年10月1日

■2200円+税
1996年6月から1998年7月まで『週刊医学界新聞』に連載され、加筆訂正し出版。

著者は1980年京都大学医学部卒業し、同大学大学院で癌研究に従事。1990年よりマサチューセッツ総合病院(ハーバート大学医学部)で骨代謝研究。

「私は昔医者をしていた。今、人々は私のことを医療サービス提供者と呼ぶ」「医療を市場原理に委ねると、吸血鬼にかまれた者が皆吸血鬼になる『バンパイア効果』が歯止めなく広がる危険がある」など。

日本がモデルにしているアメリカの医療制度、とくにマネージド・ケア(管理された医療)の実態を紹介し日本への警鐘をならしています。




5.アメリカ彦蔵
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:吉村昭

■発行所:新潮社

■発行日:2001年8月1日

■819円+税
幕末、難破し救助されてアメリカに渡り、鎖国と開国に揺れる日本に運命を翻弄された男の物語。

アメリカ彦蔵は何となく知っていましたが、兵庫県に縁の深い人とは。播磨国加古郡阿江閇(あえ)村古宮(こみや)、現在の兵庫県加古郡播磨町の生まれです。

鎖国政策で帰国できず、洗礼・米国へ帰化し、その後は最優秀の通訳として日米外交の最先端に立ち、日本で最初の新聞を発行など活躍しながら、一方では無国籍の思いにかられる彦蔵。そして最後は、時代が彼を追い越していきました。

吉村昭さんは好きな作家の一人。今度は『東京の戦争』を読みたいと思っています。




6.福祉NPO(地域を支える市民起業)
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:渋川智明

■発行所:岩波書店

■発行日:2001年6月20日

■700円+税(新書版)
今や、地方行政や福祉事業での1つのキーワードがNPO。
兵庫県でも認証を受けているNPOが9月末現在で162、灘区でも6つのNPOが活動しています。

毎日新聞の地方分権と社会保障の専門家である著者は、新書版の大きさにもかかわらず,ずいぶん多くのNPOを取材して、具体的事例も紹介していますので,関心のある方には参考になります。

無いものネダリ:私が一番気になるのは、NPOと行政の関係。行政の中には安上がりのサービス提供主体としてしか考えていない向きもあり、大変心配です。

 著者が「あとがき」の中で書いているように「(NPOの)現状は残念ながら行政の委託事業や補助金依存の部分が多くなりつつ」あります。行政側の意図を感じざるを得ません。




7.神戸市電が走った街 今昔
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:金治勉(著)・福田静二(編) 

■発行所:JTB

■発行日:2001年10月1日

■1700円+税
神戸に住んで36年、最初に見たのが坂道と街を走る市電でした。田舎の鳥取にはなかった乗り物。
 日韓条約反対デモやアメリカの北ベトナム爆撃反対デモなど、私たちがよく通行妨害した市電も、その後廃止されてしまいました。

その昔、大正時代に神戸栄光教会(本の表紙写真の教会)前をカンカン帽をかぶってデモる川崎・三菱争議団の労働者たちの写真を見たことがあります。
 教会は元町山手の名物教会でしたが、震災で倒壊。そして今、再建されようとしています。

よその街に行った時、神戸の市電が元気に活躍しているのに出会うことがあります。
 その際、なつかしさと共に、「神戸も市電を残しておけば・・・」という思いに駆られるのは、私だけではないでしょう。




8.創世の守護神
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:グラハム・ハンコック、ロバート・ボーヴァル(訳者:大地 舜)

■発行所:小学館

■発行日:1999年12月1日

■733円+税(文庫版)
子供の頃からピラミッドやスフィンクスが不思議でした。とくに、顔は人間、その他はライオンというスフインクス、なぜこんな物を大昔のエジプト人は作ったのか?

グラハム・ハンコックの『神々の指紋』という本も読みました。眼からウロコがとは、その時の印象ですが、この本も、なかなかのインパクト。

スフィンクス建造は,定説の紀元前2500年よりもっと古く、なんと紀元前15000年前という。星座の位置関係などコンピュータ・シミュレーションを使って証明します。
 いずれにしても、当時の天文学的知識と土木工学的な知恵には、まるで異星人の仕業とすら思いたくなります。




9.鴎外最大の悲劇
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:坂内 正

■発行所:新潮社

■発行日:2001年5月20日

■1400円+税(選書版)
明治の後半、日本軍を海軍と陸軍とに二分し行われた脚気論争。白米の過剰摂食とみる海軍は被害が少なかったのに比べ、鴎外を代表論客とする陸軍は日清、日露の戦争で30万人の脚気患者と3万2千人を超える同病死者。この論争で最後まで自説に拘泥し、論争相手を論理逸脱・曲解してまで論難しようとした鴎外は、まさしく「自尊心のお化け」(津野梅太郎さん・朝日新聞読書欄/2001年6月17日付)

読んで楽しい、という本ではありません。しかし、「狂牛病」で揺れる現在と明治の「脚気」問題と、同じ食べ物の問題。著者は、権力大好きでしかも鬱屈したエリート・インテリ(鴎外)の姿を、しつこく追っかけています。

カフカの専門家である著者は「あとがき」でカフカと鴎外との違いをこう書いています。
 「一生を半官半民の労働者災害保険局の吏員で終わったカフカと軍医最高の地位まで昇りつめ数々の顕職に包まれた鴎外林太郎の違いを言うのではない。
 両者における言語意識の違いというか、『書く』ということについての意識の違いである。是非を言うのではないが、ひたすら言語を内に向け、自身の内面の真実の追求とその救済のために使ったカフカと、外に向け、啓蒙の他にも、自己の顕示と敵と見立てた者に対する攻撃と圧伏のためにその言語の多くを使った林太郎の違いである」




10.狂牛病(人類への警鐘)
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:中村靖彦

■発行所:岩波書店

■発行日:2001年11月5日

■700円+税(新書版)
今年のショッキングなニュースの一つは、日本の狂牛病。数年前のヨーロッパでの出来事は、遠い話と思っていた私のとんでもない認識不足。あわてて買って読んだのがこの本です。

もともと草食動物の牛に、まさしく共食いの「肉骨粉」を与えたことから始まる狂牛病。
 その原因は、畜産業に押し寄せたコスト主義。早く大きくなり、牛乳もよく出る「肉骨粉」は他の飼料に比べ安かった。かつまた「リサイクル」とすら思ったりした人間の身勝手さ。

ヨーロッパで狂牛病が流行し始めた時、他山の石として素早い対策を取らなかった日本政府の鈍感さ、日本で発見されてからの行政のゴテゴテぶりはご承知のところです。
 しかし、それを許した大きな原因は、私も含めた国民、消費者の姿勢もあります。




11.兵庫のなかの朝鮮(歩いて知る朝鮮と日本の歴史)
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■編著:「兵庫のなかの朝鮮」編集員会

■発行所:明石書店

■発行日:2001年5月10日

■1800円+税
神戸に来るまで、朝鮮人の友達や知人は一人もいませんでした。
 しかし、神戸は古代から朝鮮と交流があり、近代では強制連行があり、地震の時には朝鮮学校を開放してもらったり、いろいろの歴史が、街の中に多くあります。それを丁寧に解説しています。

私事ですが、結婚直後の幼かった長女を保育所代わりに、今で言うショートステイ的に預かってくれたのが女房の知人だった朝鮮人のRさんでした。以来、何かにつけてお世話になっています。

本の「あとがき」を書いている飛田雄一さんは、阪急六甲近所の学生センター館長さんですが、朝鮮人をはじめ外国人の権利擁護の問題を長年取り組んでいる人。




12.医者 井戸を掘る(アフガン旱魃との闘い)
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:中村 哲

■発行所:石風社

■発行日:2001年10月20日

■1800円+税
アフガニスタン戦争の中、中村哲さんはある意味で時の人。しかし、パキスタン、アフガニスタン現地で17年、NGOペシャワールの会として地道な活動がその根拠にあります。

12月7日の神戸・緊急報告会で中村さんのお話を聞きました。決して雄弁ではなく、トツトツとした語り口。「タリバン」や女性の「ブルカ」や「医者が何故井戸掘りを?」など、日本のマスコミが報じないアフガニスタン現場での本当の話、聴衆は引き込まれました。
 「アフガニスタンでの活動の動機と信念は?」という会場からの質問に「良心の縁(えん、えにし)」と答えていたのがとても印象的で心に残りました。

まるっきり、本の紹介にはなりませんでした。あなたが、もしまだなら、ぜひご一読を。