B そこで、震災直後の状態を知るため、別な詳細データをみると
(環境庁の95年モニタリング調査)
測定場所\測定月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 |
一般環境 | 東灘監視局 | 1.2 | 1.2 | 1.1 | 0.6 | 0.3 | 0.7 |
灘保健所 | 1.4 | 2.0 | 1.4 | 0.7 | 0.7 | 0.7 |
中央区役所 | 4.9 | 2.1 | 2.0 | 0.9 | 1.1 | 0.9 |
環境保健研究所 | 0.6 | 1.2 | 0.7 | 0.6 | 1.7 | 0.6 |
兵庫区役所 | 1.7 | 0.6 | 0.9 | 1.2 | 1.2 | 0.7 |
長田監視局 | 1.5 | 0.8 | 1.5 | 0.8 | 1.6 | 0.3 |
須磨監視局 | 0.2 | 0.7 | 0.7 | 1.0 | 1.1 | 0.8 |
幾何平均値 | 1.1 | 1.1 | 1.1 | 0.8 | 1.0 | 0.6 |
解体現場 | 測定現場数 | 9 | 8 | 7 | 7 | 6 |
最大値 | 7.7 | 9.5 | 19.9 | 9.6 | 9.9 |
最小値 | 0.8 | 0.9 | 0.9 | 0.9 | 0.9 |
幾何平均値 | 3.3 | 4.5 | 6.7 | 4.4 | 3.1 |
アスベストの一応の基準は、10本/リットルである。しかし、これ以下だから大丈夫という保証はどこにもない。4時間通気するとはいえ、ほとんど瞬間的な濃度でアスベストをみることは間違いではないかと思う。どれだけのアスベストを結果として吸い込んだか、総量的な視点でアスベストを捉えることが大事なのではと考える。そうなると、心配なのは、震災後どうだったのか? 井上力市会議員が推測するアスベストが一番濃厚な震災直後の時期、すなわち1月期のデータはない。 仕方がないので上記の環境庁のデータで、以下に素人の大胆な試算をやってみる。
<前提>
・期間は、95年2月から95年7月までの半年間
・アスベスト吸引場所は、旧・灘保健所の近所(灘区神ノ木通3-6-18) ※震災時、この地域はアスベストを含むような建物倒壊はなかった場所にあたる
・成人の1日の呼吸量18,500リットル
・アスベストの測定法は、10リットル/分で4時間通気しアスベスト本数を測定 (※長さが5μm以上かつ長さと幅の比が3対1以上の繊維状物質を、50視野または200本以上として計測)
・測定法の10リットル/分では、人間は呼吸しづらいので、1.28をかけて少し補正する ※18,500÷(10×60×24)≒1.28
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【2月】 1.4×6(24÷4)×1.28×28(日)=301本
【3月】 2.0 同上 ×31 =476
【4月】 1.4 ×30 =322
【5月】 0.7 ×31 =166
【6月】 0.7 ×30 =161
【7月】 0.7 ×31 =166
合計=1,592本
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灘区のアスベスト汚染が比較的少ないと思われる地域で、わずか半年間で1600本近くのアスベストを吸っていることになる。被災者が解体現場付近を通過したり、汚染のひどい地域に住んでいた場合、これよりはるかに多くのアスベストを吸っていることになる。直接に解体作業をしていた労働者は論を待たない。
アスベストは体外に排出されるわずかなものを除けば、ずっと体内に蓄積される。前記の半年という期間以外に、すなわち震災直後の95年1月期、そして95年8月以降の期間を考え合わせると、震災で一体どれほどのアスベストを神戸市民は吸引したのか、その不安を消すことができない。
★★ そして、ついに震災から13年で(!)被災地の解体アスベストによる中皮腫(08年2月労災認定)
以下の3−Aを参照
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@ 「兵庫県のクボタ」に始まるアスベスト問題
今回のアスベスト問題は「兵庫県のクボタ」に始まる。当該企業周辺の住民のみならず県民全体、国民全体に大きな不安を及ぼした。こうした経緯を踏まえるならば、兵庫県知事に求められるのは、「徹底した安全の追求」である。間違っても、中途半端な「安全宣言」をしたり、早々と幕引きをすることではない。ところが、知事は記者会見でそれをした。
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◆井戸知事の記者会見(05年7月11日)
「まず、現時点でアスベストを起因とする被害が生じる可能性がほとんど無いということを強調させていただきたいと思います。すでに昭和62年に『兵庫県アスベスト対策推進会議』を設置しまして、県有施設における吹きつけアスベスト飛散防止工事の推進を行ったわけですが、平成元年12月には大気汚染防止法の改正が行われまして、法律で規制されることになりました。それに基づきまして、公害防止条例の施行規則も直して、石綿製品等製造工場に対する届出、規制基準の遵守等が義務付けられ、アスベストの規制を強化しております。・・・(中略)・・・敷地境界上での測定を元年以降、必ず行っていますが基準値をすべて下回っておりますし、現在で環境上の問題は無いと認識しております。解体現場につきましても特に阪神・淡路大震災の後、課題になりまして、私どもとしましては、平成7年の環境の保全と創造に関する条例の改正の際に工事を施工する際の届出、作業基準の遵守等の義務付けを行っています。このような制度的な担保をすでに実施していますので、新たな発生被害が生じることはないのではないかと考えています」。
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A 「因果関係薄い」と知事は記者会見・・・・・とうとう震災の解体作業で中皮腫が発生しているのに
95年の阪神大震災で建物解体作業をし中皮腫になった男性(30代)について、姫路労働基準監督署が08年2月28日に労災認定を行った。同労基署によると、この男性は震災時の解体作業以外にアスベスト関連の仕事はしていないという。
被災地のアスベスト問題を懸念している私には、新聞記事を見てこれまで心配していたことが現実になって現れたと思った。
※ 資料: 震災・神戸市で解体作業の作業員に中皮腫の労災認定(2008年3月5日・朝日新聞)
この新聞発表直後から始まったNPO法人「ひょうご労働安全衛生センター」による電話相談には、震災時に解体作業に従事した労働者から多くの不安が寄せられ始めている。
ところが、井戸知事はわざわざ3月10日の記者会見で「震災での解体作業を中皮腫発症の原因とする報道もあったが、今回の認定は直接の因果関係を認めたものではない」と、またまたノーテンキな考えを発表した。
※ 資料: 神戸新聞(3月11日)
兵庫県HPに記者との興味深いやり取りが載っており、関連部分を以下に紹介する。(※下線は吉田が付けました)
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◆井戸知事の記者会見(08年3月10日)
B記者: アスベストの問題について、被ばく作業が一年以上あるということで、当然その中に震災時の解体作業も含まれているということになろうかと思います。その件について、知事はいささか事実誤認のところがあるということで、現時点で震災時の解体作業が大きな要因になっているとは考えにくいと仰いましたが、もう一度その理由をお聞かせください。
知事: 一般的にアスベストが要因となって中皮腫が発症するには20年以上ぐらいの長い期間がかかると言われています。我々の作業現場周辺での測定状況をみると、1地域において、1回だけオーバーしたことはありましたが、それ以外は基準値以内だったという状況でした。これら2つを勘案すると、直接に震災時の解体作業が要因になっていることについて、明確に因果関係があるというのはなかなか難しいのかなという意味で申し上げました。現に、専門家の皆さんも、そのことが原因で増えているという傾向は、今のところ見当たらないと仰っておられるので、それらを勘案して申し上げたということです。
B記者: 専門家の方のお話で、20年以上かかるということが原則であれば、これ以降に増えるという傾向が出る可能性もありますが。
知事: それは分かりません。ですから、今年は13年目なので、あと7年後ぐらいに増加するのかしないのか、これは予断を許さないと思います。それについては、相談窓口等をきちんと用意しながら見守らさせていただくということが基本になるのではないかと思います。もし何らかの問題が発生するようであれば、適切な対応をさせていただこうと考えています。
C記者: 関連してお聞きします。現時点で分からない状況で、アスベストによる中皮腫というのは時間が経過してからというのはよく言われている話ですが、このケースが先駆けだった場合は、今後増えてくる可能性があると思います。一般的な知見としてあまり考えにくいということで知事は発表されたのかと思いますが、中途半端な安全情報になるのではないでしょうか。
知事: いえいえ、中途半端な危険情報を報道されるのも問題だと私は思っているからです。つまり、労働基準監督署は因果関係を認めたわけではなく、労災認定の基準として、一年以上の被ばく作業をしたことがあると証明されて、しかも中皮腫だということであれば、労災認定を機械的にするということなんですよね。ですから、被災時の解体作業の期間がその中に含まれていたから、それで直ちに因果関係があるということにはなりにくいのではないでしょうかと申し上げています。報道では、いかにも因果関係があるように報じられていますので、現実のきちんとした情報を踏まえた上で、県民の皆さんに承知しておいていただく必要があるという意味で、今説明をさせていただきました。
C記者: 事実関係としてはそうだと思いますが、例えば可能性を追求するという意味で、行政に求める安全情報、安心情報というのは、可能性を完全に否定できる場合に求められると思いますが。
知事: そんなことはないと思います。一つ一つのケースに応じた安全情報も必要でしょうし、私は可能性を否定しているわけではなく、考えにくいのではないでしょうかということを申し上げています。
C記者: 今回のこの事例をもって、すぐにとは言いませんが5年後、10年後にこういう事例が増えてくることを想定した対策をとる場合と、事例が出てくるまで待つ場合と二通り考えられると思います。今回の発表を見ると後者の方に見えますが、その辺についてはいかがでしょうか。
知事: そんなことはありません。資料にも「今後の対応」として書いているように、我々としては健康不安をお持ちの方々のご相談にはきちんと乗りましょう、それからその方の状況に応じた対応等についてきちんとアドバイスしましょう、もしその中でアスベストにかかる問診等で、問題だと思う方については検診を実施していただいて、フォローアップの仕組みにつないでいこうということです。我々は何も今後増えてから対応するつもりではなく、現実の不安に対して的確な対応ができるような仕掛けをきちんと用意しているという意味で申し上げさせていただきました。
C記者: 因果関係は考えにくいのではないかと仰いましたが、完全否定したわけではないということでよろしいでしょうか。
知事: 我々行政の立場では、完全否定はできませんので。
C記者: 資料にある測定結果について、被災地の被災直後の混乱した状況の中で、このデータがどれほど信頼感のあるものと考えておられますか。
知事: データ自身は非常に信頼性の置けるものですし、客観的に対応させていただいたものだと思います。ただ、一般大気環境の調査地点は17か所、解体現場周辺では61地点ですから、これでもって全部しらみつぶしに調査された結果かと言われれば、そうではなく、統計的な標本箇所を選び出して調査をして、全体像を推計せざるを得なかったというのは間違いありません。ですから、これを上回る地点はなかったのかと聞かれても、今の段階では、この調査結果だけではあるともないとも評価できないということではないかと思っています。ただ、個々すべての評価をできなかったとしても、被災地全体総じての評価はできるのではないかと考えています。
C記者: これを契機に、何らかの調査をする予定はありますか。
知事: さらに何か大きな状況変化が出てくれば別だとは思いますが、現時点では特にありません。
D記者: 先程の労災認定に関連してお聞きします。兵庫労働局から聴取されたとのことですが、この方が震災時の解体作業以外に、石綿に被ばくする環境にあったということは把握されていますか。
知事: 私は承知していません。労働基準監督署に尋ねてください。
D記者: この方は、震災時以外に石綿に被ばくしていないということなんですね。
知事: ないかどうかではなくて、資料に書いているように、一年以上の被ばく期間があれば、機械的に中皮腫の方は労災認定しているという基準になっており、それに基づいて労災認定されたと承知しています。
D記者: 知事は20年から25年と仰いましたが、専門家の説では、20年から25年というふうにコンクリートされていなくて、10年で発症するというケースも挙げられています。その点についてはいかがお考えですか。
知事: 私は専門家ではないので承知していません。
D記者: 今後の発症について、相談窓口で対応されるとのことですが、特に解体作業にあたられた方は県外の方が非常に多いのではないかと思われます。あるいは被災地外の方が当時の状況からすると多いと思われるのですが、その方たちに対して、間接的になるかもしれませんが、何らかの形で自分が作業したときの状況や場所などを記録してくださいという形で呼びかけをされるご予定はありますか。
知事: 今の状況で、特にそこまで呼びかけをする必要があるかないかということですが、既に設置している相談窓口では、何も兵庫県内に住んでいる人以外の相談には乗りませんということではありません。こういう窓口が用意されていることはホームページにも掲載していますし、これからも相談に乗らせていただくということで対応しようと考えています。
D記者: 積極的に解体作業に従事された方々に対して、当時の記録をしてもらうというお考えはないですか。
知事: 私どもが調査をしている限りでは、被災地全体として、被災直後にそこまで多くの危険があったかどうかということについて、可能性はゼロとは言いませんが、可能性が非常に高い状況とは認識していませんので、現時点ではそこまでの対応は考えていないということです。
E記者: 先程質問がありましたが、被災地での解体作業以外に石綿被ばくの可能性のある作業に従事していないということであるのに、震災時の解体作業との因果関係が低いのではないかと言われる理由をもう一度お聞かせください。
知事: 震災時の解体作業以外に、その方は従事していないのですか。私はその辺については承知していませんが、ないと言い切れるのでしょうか。つまり、きちんとした証明が出される作業経験としては、震災時から一年ということだったのではないでしょうか。それ以外はないのですか?私はそうじゃないと承知しているのですが。だから、先程も申しましたように、労働基準監督署にきちんと確認していただいた方がよいと思います。
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長い引用で恐縮だが、一読していただければこの知事は「恥」ということを知らないと思う。会見の中で不満そうに繰り返している「機械的な労災認定」という言葉が物語るように、自らの見識のなさを、そして県民に不安を生じさせるもの、例えどんなものでも徹底追究し県民の健康に責任を持つという自覚のなさ、知事としての基本的姿勢の欠如が明らかだ。
※資料: 石綿による疾病の認定基準改正について
「2.中皮腫の場合 中皮腫の確定診断等がなされていることの確認ができていれば、石綿ばく露作業への従事期間が1年以上であれば認定要件を満たすことに改正」(06年2月9日付・兵庫労働局HPより)
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▼資料: 09年は兵庫県がワースト第2位(死者:大阪108名、兵庫106名).
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▼資料: 中皮腫の認定申請・弔慰金請求の延べ受付状況(09年10月末まで)
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▼資料: 石綿疾病の労災・特別遺族給付金の受付・支給決定状況(全国と兵庫県・08年度)
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▼資料: 労基局別の労災認定(兵庫県・06年度まで・元の資料は厚労省)
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