A なぜ、行政がサービス事業をやらないのか? 神戸市では、介護保険が始まるまでは、市職員ヘルパーがわずか65名ながら活動していた。登録ボランティア=市民福祉振興協会の活動
が一般市民を対象としたのに、公務員ヘルパーは生活保護を対象としていたため、その存在に普通の市民は余り気がつかなかった。
ところが、介護保険がスタートする前に、全員がヘルパーの仕事から市の他の仕事に配置換えになった。始まる介護保険で、ヘルパーを
含めて全部の介護サービスの仕事を民間に開放するためである。こうした出来事は実は神戸に限らず、介護保険の報酬単価をにらんで、公
務員であれ外郭あるいは社協の職員であれ、介護保険スタート前後に似たような話は、全国の大都市部で起きたらしい。
しかし、僻地を含め郡部や中小都市では事情が違っていた。介護保険で実際に民間からの事業参入があったのは、全国約3300の自治体の
うち都市部を中心に3割程度で、残りの自治体には採算上から民間は参入しなかったり、また最初は参入してもその後経営上の理由などか
ら事業撤退した。その中で、当該の自治体は民間依存ではなく自前の職員を確保したりしてサービス提供を行っている。
ところが、この出来事は、しばらくすると郡部だけの問題ではなくなった。今度は都市部でも似たような事が起きてきている。
たとえば訪問介護の仕事のうち、実際に住民の需要が多いのは「家事援助」であり、単価が相対的に高い「身体介護」は事業者が想定し
たよりも需要が少なかった。このため介護保険を一攫千金の事業チャンスと期待していた事業者の中には、郡部からも都市部からも縮小・
撤退する所も出てきている。派手にテレビコマーシャルを流していた某ヘルパー会社が、大幅なリストラ・地域からの事業撤退をせざるを
得なくなったのもこの故である。
つまり、介護単価の引き合う介護サービスには民間事業者は集まっても、そうでないサービスは敬遠され事業として展開しようとしな
い。まして慈善事業ではなく、利益が目的の営利会社であれば当然の話だ。勿論、介護事業者はこうした営利会社ばかりではなく、社会福
祉法人や医療生協なども含めてNPO系は頑張っているが、「家事援助」だけをみるとシンドイ経営であることは変わりない。
こうして参入事業者の多いはずの都市部でも今やサービス種類によっては、せっかく認定された要介護者がサービスを受けられないか、
施設入所のように順番待ち・待機の状態を強いられているのが現実だ。