「お日様が空へ昇り、青い空に白い雲がプカプカと顔を覗かせた頃、ミサオおばあちゃんは、ガラガラとタイヤの錆び付いた手押し車に猫のフクマルを乗せて畑に出かけます。
ミサオおばあちゃんは今年で85歳。現役で農業を営んでいます。
フクマルは今年で6歳。おばあちゃんのお供を務める雑種です。おばあちゃんとフクマルは、一日の大半を畑で過ごします。
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そんなおばあちゃんとフクマルの出会いは、寒い冬の日の事でした。
おばあちゃんの家の後ろにある釜戸小屋に、野良猫が子猫を産み落としました。トラ猫から真っ白い子猫が4匹産まれました。生まれつき体の弱かった4匹の子猫たちは、産まれて間もなく3匹が衰弱し、亡くなりました。その中で、たった1匹生き残った子猫がフクマルでした。
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フクマルは、持病のために生まれつき耳が不自由です。おばあちゃんも老化が原因で耳が遠いため、おばあちゃんとフクマルは、いつも見つめ合いながらお互いを確認しています。
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ミサオおばあちゃんと猫のフクマルの世界は、とても小さく狭い世界だけれど、お日様の下、互いを愛し、目の前の小さな命を守りながら堂々と生きる姿は、自然の中でキラキラと輝いて見えます。心で感じ合う愛は、命あるすべてに伝わるのだと教えてくれました。そんなおばあちゃんとフクマルの世界は、『ゆっくり生きればいいんだよ』と語りかけているようでした。
青い空の下、ミサオおばあちゃんと猫のフクマルは、今日も仲良く畑を耕しています。『フクマル、ずっと一緒だよ』と、おばあちゃんはフクマルに微笑みかけています。」
(伊原美代子「おばあちゃんと猫」『DAYS JAPAN』09年9月号)