こんな本、あんな本















1.静かなる大恐慌
■著者:柴山桂太 ■発行所:集英社 ■発行日:2012年9月19日 ■定価:740円+税

著者は、1974年生まれで滋賀大の准教授。ケインズの研究家で専門は経済思想。本の帯には『TPP亡国論』の著者・中野剛志さんが推薦文を。

2008年のリーマン・ショックから5年、日本はいまアベノミクスの下で株高に浮かれ気味。1929年恐慌、ついこの間のリーマンショックは「100年に1度、だからもう安心」とでも言わんばかり・・・。でも、本当にそうなのか?私の問題意識です。

著者は、ギリシャなど一連の世界経済危機は、「静かなる恐慌」と捉えます。他の人の節からですが、危機・緊張関係の要素は「グローバル化」、「国家主権」、「民主政治」の3つで、論理的に2つしか選択できないと。

組み合わせると、@グローバル化と国家主権(民主政治は犠牲に) Aグローバル化と民主政治(国家主権は犠牲に)具体例はEU統合 B国家主権と民主政治(グローバル化は犠牲に)具体例はブレトンウッズ体制。
 著者の考えでは、ケインズに見習ってBが望ましく、犠牲にする「グローバル化」の代わりは「国際主義」。

最後に、「資本主義は終わらない」「脱グローバル化のため投資の社会化」など著者の結論部分は、正直よく理解できませんでした。
 それはともかく、今の経済危機に対して、いろいろな示唆に富んだ面白い新書版、ご一読を。








2.証言と遺言(福島菊次郎・写真集)
■著者:福島菊次郎 ■発行所:DAYS JAPAN ■発行日:2013年3月4日 ■定価:3600円

「92歳、伝説のフォトジャーナリスト」と本の帯にある。表紙写真の被爆者・中村杉松さん、のたうち回って苦しみ悶絶する彼に「私の仇を討ってください」と福島さんは撮影を頼まれた。それがプロ写真家の始まり。
 しかし、被写体に肉薄すれば被写体の人格は侵され、撮る側も深い慚愧の念を抱え、福島さんは精神科病棟に入る寸前まで追い詰められたと、この本の最後に写真家・広河隆一さんが書いている。

「すべての同志にむけて」というのが著者の前書き。そこには「『一枚の写真が国家を動かすこともある』というスローガンを表紙に掲げたDAYS JAPNから出版される私の写真集は、果たしていまの日本を動かすことができるだろうか…」とある。

「僕は21世紀にはふさわしくない」と、20世紀が終わろうとする頃に福島さんは自分の棺桶を作り始めたという。
 「この国にとうとう愛想を尽かしたのか…と心配になった」と、弟子筋にあたる写真家・那須圭子さんは思った。、
 でも、やがてその棺桶は書棚に変わり、原発事故後も現地に一緒に出かけた。「福島さんは、この国をまだあきらめていない」と、本の末尾に那須さんは書いている。

右にあるが、この本の一番最後に赤々と押されているスタンプ。怠惰に慣れた私の心をむち打って止まない。








3.ヘミングウェイが愛した6本指の猫たち
■写真:外崎久雄/文:斉藤道子 ■発行所:インターワーク出版 ■発行日:2004年11月25日 ■定価:2000円

新しい本ではありません。BS放送で見た女優・杏さんのキューバ訪問記、そこでヘミングウェイ博物館の猫たちのことを知りました。
 ネットで見つけた洒落た本屋さん「海の古書店」から、定価よりずいぶん安く手に入れました。

右の写真のように、まるでグローブのようなデッカイ手をした猫、指が6本あります。
 昔ヘミングウェイが知り合いの船長からもらったメイクーン種の猫「スノーボール」。

 その子孫たちが、かってヘミングウェイがしていたように、オードリー・ヘップバーンだとかスペンサー・トレーシーだとか有名人の名前を付けられ米国キーウエストの博物館で50匹ほど、専属の獣医さん付きで大事に飼われています。そのほとんどが6本指だといいます。

本は、かってのヘミングウェイ邸宅だった博物館の中でのんびりと暮らす猫たちの写真集、とても心が優しくなります。キューバにもヘミングウェイ記念館があるそうで、そこにも猫が飼われているとか。ぜひ一度訪ねてみたいもの。

<海の古書店・中川典子さんから>

 テレビであのヘミングウェイの猫たちをごらんになったのですね。
 愛されて自由でうらやましい限りの猫たちです。
 吉田さまのお宅の3匹の猫ちゃんもきっと愛されて幸せなのでしょうね。

 わが家の猫は今は1匹になりました。今年15歳、貫禄のマダムです。

 猫との暮し、時間の流れ方がちがうような気がいたします。
 猫に出逢えた幸運を満喫して過ごしてゆきたいものですね。
 吉田さまもどうぞすてきな猫との日々を。

 このたびはご縁をいただきありがとうございました。心から感謝申し上げます。

                              海の古書店 中川典子








4.世界から猫が消えたなら
■著者:川村元気 ■発行所:マガジンハウス ■発行日:2012年10月25日 ■定価:1400円+税

話題の本らしく、よく売れていて私が購入したのは、今年3月15日で第13刷。でも、そんなことより、「猫好きとしては読まざるを得ないか」ぐらいの気持ちで求めました。

主人公、30歳、仕事は郵便配達、脳腫瘍のステージ4で余命幾ばくもなし。
 そんな主人公の所に悪魔がやって来て、余命を1日づつ延ばす代わりに、世界から携帯、チョコレート、時間などを次々と消していく。そして、いよいよキャベツという名の愛猫を消す番になります。 

最初読んでいる時は、著者や主人公とも年代がずいぶん違い、なんとなく違和感がありました。「・・・っす」という若者言葉の会話場面も嫌いでした。

でもしぶしぶ読んでいて、後半あたりからだんだん面白くなりました。とくに猫を世界から消す話が出てくるあたりから。これは人と人との愛情について、人と猫との関係について書いているんだと、ようやく理解できました。

さて結局、主人公は「世界から猫を消す」ことを受け入れるのでしょうか?なかなかのラストシーンも含めて読んでのお楽しみに。
 最後に、主人公の母が彼に言った言葉を記しておきます。「人間が猫を飼っているわけじゃなくて、猫が人間のそばにいてくれてるだけなのよ」








5.ペコロスの母に会いに行く
■著者:岡野雄一 ■発行所:西日本新聞 ■発行日:2012年7月7日 ■定価:1200円+税

62歳の漫画家が、認知症で脳梗塞に倒れた母(89歳、グループホーム入所中)に面会に行く時々の出来事を描いた漫画。西日本新聞に連載中です。

「ペコロス」とは、小さなタマネギのこと、ハゲてしまった作者のペンネーム。
 でも、認知症の母が息子を認識できる有力な身体の特徴、「ハゲてて良かった」と作品の中で息子は独白。

「忘れることは、悪いことばかりじゃない。母を見ていて、そう思います」と「あとがき」に作者が書いています。
 認知症ではなかったけれど、「もっとちゃんと世話を、もっと会いに行くべきだった」という慚愧の念。私の母は田舎の施設で亡くなりましたが、その姿がなんとなく重なりウルウルしました。

とっても暖かくて、そして切なくて、でもいい本です。ご一読を!









6.原発事故と甲状腺がん
■著者:菅谷(すげのや)昭 ■発行所:幻冬舎 ■発行日:2013年5月30日 ■定価:838円+税

福島で、そして全国で問題になっている甲状腺がん、できれば臨床医の本を読みたいと思っていた時、ちょうど良い本が出ました。
 著者は、現・松本市長で甲状腺専門医、しかもチェルノブイリ事故後に5年半、ベラルーシで医療支援活動をした人。現在進行形の「福島の甲状腺がん」という問題意識も共通し、すぐ購入しました。

その経歴と行動力がスゴイ!信州大学助教授を辞めて単身1995年12月からベラルーシで小児甲状腺がん外科治療など医療支援の活動、2001年帰国後に長野県の衛生部長、2004年から松本市長として現在まで。
 最初の市長当選直後の記者会見は「明日から胃がん手術で入院します」というもので、11日後には退院して市長に就任。

甲状腺のしこりである腫瘤(しゅりゅう)は大別して、A.嚢胞(のうほう・液体・良性) B.結節(肉塊)の二つ。
 そしてBの結節には、@がん腫(悪性) A腺腫(良性)の種類。実際のエコー画像など本当は難しい判別だろうと思いますが、他の資料ではよく理解できなかった概念がこの本でやっと理解。

チェルノブイリ事故で健康被害を拡大した要因の一つに情報の非開示が指摘されます。
 事故発生が1986年4月26日未明。しかし、国家行事ともいうべき5月1日のメーデーが終わるまで、旧ソ連政府は事故の情報を伏せたまま。大人も子どもも放射能の雨が降る中で練習、5月1日当日も戸外でメーデーに参加し、大量の被曝が発生したと著者は指摘。
 福島原発事故で飯舘村へ避難誘導された日本の場合となにやら似ています。

こうした中で、「素晴らしい対応」と賞賛しているのがポーランド政府の対応。
 事故翌日には早くも大気汚染を察知、しかも80%が放射性ヨウ素と知るや、事故後4日目にはすべての病院、保健所、学校、幼稚園で安定ヨウ素剤を配布。小児人口の9割超の1000万人以上の子どもに薬を投与したのです。福島では、県立医科大のスタッフだけが安定ヨウ素剤を飲んでいました!

「チェルノブイリ・ネックレス」、ベラルーシの医療支援の中で著者が目の当たりにした子どもたちの甲状腺がん手術のすさまじい創痕です。何の罪もない小さな女の子、その細い白い首に刻まれて生涯消えない傷跡。
 「なぜあの時、早く逃げなかったのか」「どうしてキノコを食べさせたのか」と、親たちを苛む意識や嘆きが、今の福島の父母の思いですが、聞こえてくるようです。
 もちろん遅れた医療技術や器具のせいもありますが、もっと根本には早く避難させなかった政府と原発推進の罪が一番。

著者の新しく出された『新版・チェルノブイリ診療記』(新潮文庫・420円)と合わせ、ぜひご一読を。









7.ひさし伝
■著者:笹沢 信 ■発行所:新潮社 ■発行日:2012年4月20日 ■定価:3000円+税

福島原発事故前の2010年4月に75歳で亡くなった井上ひさしさんの評伝。死去からわずか1年ほどの出版ですが、演劇、文学、ドラマなど多分野にわたり、戦争や憲法、国家、農業などについての作品、発言録など、本当に膨大な資料を読み込み書かれた500頁近い大評伝です。

 ごく限られた作品しか読んでいない私などには、初めて知る作品も多く、とても参考になりました。

語呂合わせ、ダジャレを含めて言葉が機関銃のように飛び出してくる井上ひさし作品。「ちょっとついて行けないな・・・」と思うこともありました。

 でも、「世界の涙の量を1グラムでも減らすことができれば、こんなにうれしいことはありません」(2001年朝日賞受賞の際の井上ひさし挨拶)と生涯を貫いたあの姿勢は、いったいどこから生まれたのか?

5歳で父を失い、戦後は生活苦から母と別れ仙台の養護施設に。東京に出てからも標準語がしゃべれず吃音症にも。そうした体験を生かして、言葉を駆使する作品、悲劇よりも喜劇を大事にする作品が生まれたと本書。

もし、井上ひさしさんが原発事故を経験していたら、今どんな発言を、どんな作品を書いただろうか? そんな私の追想も生まれます。

 本書の最後には井上ひさしさんのこんなメッセージが

  100年後の皆さん。お元気ですか?
  この100年の間に、戦争はあったでしょうか?
  それから、地球が駄目になるのではなく、
  地球の上で暮らしている人間が、
  駄目になってはいないでしょうか?

  僕たちの世代は、それなりに
  一所懸命に頑張ってきたつもりですし、
  これからも頑張るつもりですが、
  できたら100年後の皆さんに、
  とてもいい地球をお渡しできるように、
  100年前の我々も必死で頑張ります。
  どうぞお幸せに。










8.清冽(茨木のり子の肖像)
■著者:後藤正治 ■発行所:中央公論社 ■発行日:2011年9月20日(第6版) ■定価:1900円+税

「わたしが一番きれいだったとき」、「倚(よ)りかからず」、「自分の感受性くらい」など素敵な詩を書いた茨木のり子という詩人、どんな女性だったんだろうと、とても興味がありました。

スパッと歯切れ良く、「倚りかからず」や「自分の感受性くらい」の詩のように、自分を厳しく見つめ凛としたところを最後まで失わなかった女性。この本の著者が「清冽」とタイトルをつけた理由です。

上記の井上ひさしさんのような生まれや育った環境、逆境の経験があったわけではありません。
 しかし、著者が指摘するように「良家の子女」だった彼女に、あのように人の心を打つ詩が書けるとは?天賦の才能というものなのか、最後までわかりませんでした。

詩「あるとしの6月に」は60年安保のデモ隊のことを書いています。彼女自身は「声なき声の会」のデモに参加。しかし、なにかしら距離を感じています。

だが、そんな彼女が、在位50年記者会見での昭和天皇発言に作った詩は、今も心に響きます。

    四海波静

 戦争責任を問われて
 その人は言った
    そういう言葉のアヤについて
    文学方面はあまり研究していないので
    お答えできかねます
 思わず笑いが込みあげて
 どす黒い笑い吐血のように
 噴きあげては 止り また 噴きあげる

 三歳の童子だって笑い出すだろう
 文学研究果たさねば あばばばばとも言えないとしたら
 四つの島
 笑(えら)ぎに笑(えら)ぎて  どよもすか
 三十年に一つのとてつもないブラック・ユーモア

 野ざらしのどくろさえ
 カタカタカタと笑ったのに
 笑殺どころか
 頼朝級の野次ひとつ飛ばず
 どこへ行ったか散じたか落首狂歌のスピリット
 四海波静かにて
 黙々の薄気味わるい群衆と
 後白河以来の帝王学
 無音のままに貼りついて
 ことしも耳すます除夜の鐘  










9.オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史
■著者:オリバー・ストーン ピーター・カズニック 訳:大田直子 鍛原多恵子 梶山あゆみ 高橋瑠子 吉田三知世 ■発行所:早川書房 ■発行日:2013年4月15日 ■定価:各2000円+税(全3巻)

今年、NHKドキュメンタリーとして放映され、また著者の一人オリバー・ストーン監督が来日、話題になった本です。
 各巻が400頁ほど、全体では相当な分量ですが、とても読みやすく、教えられることの多い本です。
 また、ピーター・カズニックさんは、原爆投下や広島の原発について日本語の著書(共著)があります。

正直言って、こんな歴史書が米国で出版され、異例の5万部突破、話題になったこと自体が驚き!
 何故なら最初から最後まで、その時代の米国政権の暗部、犯罪とも言うべき策謀を暴いているからです。

本書で初めて知った興味深い人物がいます。それはルーズベルト時代の副大統領だったヘンリー・A・ウォーレス。もしトルーマンではなく、彼がルーズベルト死後の大統領になっていたら、日本への原爆投下も、大戦後の冷戦も変わっていたかも?と、興味は尽きません。

まあ、論より証拠、ぜひ一度お読みになることをお薦めします。