こんな本、あんな本















1.芸術新潮 (2012年1月号 特集:ベン・シャーン)
■著者:雑誌なので多数 ■発行所:新潮社 ■発行日:2012年1月25日 ■定価:1400円

いま、昨年暮れから今年7月16日まで、ベン・シャーンの写真や絵画で全国4カ所の美術館(神奈川、名古屋、岡山そして福島)を回って展覧会が開かれています。
 本書は、20年ぶりの展覧会に照準を合わせた特集物。

でも、作品500点のうち福島だけ見ることができない作品が60点あるそうです。
 その中に、ベン・シャーンが1945年パリ解放にちなんで描いた作品「解放」も含まれますが、作品所有はいずれもアメリカの美術館で、福島忌避の理由は放射能。1月23日の毎日新聞コラム「風知草」が「福島には届かない絵」として記事にしていました。

本書で「ベン・シャーンからのメッセージ 3・11後の福島で考える」という解説を書いた荒木康子さん(福島県立美術館・学芸員)が「最も福島に来てほしかった作品は、『解放』」と、毎日の記事の中で語っています。

福島県立美術館には、第5福竜丸事件をテーマにしたベン・シャーンの「ラッキードラゴン・シリーズ」の一つ「私は久保山愛吉という漁師です」が所蔵されているのに、なんという話か、ベン・シャーンの墓が動きそうです。

さて、本書に「ヘタウマ写真家」と評された写真も含め、ぜひ7月16日までに展覧会へ行きたいもの。








2.みさおとふくまる
■著者:伊原美代子 ■発行所:リトルモア ■発行日:2011年10月28日 ■定価:1600円+税

発刊以来ずっと購読している写真誌「DAYS JAPN」で「おばあちゃんと猫」として人気連載中の若手写真家・伊原美代子さんの写真集です。
 連載になる前にDAYS JAPN誌09年9月号に「おばあちゃんと猫」で単発掲載。私も、その時以来のファンです。

登場するのは、左右がそれぞれ金目と銀目(オッドアイというそうです)で生まれつき耳の不自由な白猫ふくまる、そして耳の遠くなったおばあちゃん。
 昔は日本全国どこにもいた(今もいる?)おばあちゃんと、そして猫の生活風景ですが、いつも写真から郷愁を感じ、猫への愛情に心がポカポカ。

おばあちゃんは著者・伊原さんの祖母とか、住んでいるのは千葉県とか。ですから、カバー下の本の装丁は、千葉県産のネギ出荷用箱ダンボールに模してあります。

おばあちゃんとふくまるの所へ原発の放射能が来ないことを、いつまでも元気でいて欲しいことを念じながら…








3.人間と放射線(医療用X線から原発まで)

■著者:ジョン・W・ゴフマン 訳者:いわゆる熊取6人衆(海老沢徹・小林圭二・瀬尾健・川野真治・小出裕章・今中哲二 ) および伊藤昭好・小出三千恵・佐伯和則・塚谷恒雄
  ■発行所:明石書店 ■発行日:2011年9月10日 ■定価:4700円+税

読もうという契機は、昨年6月に灘区で開催の山内知也さん(神戸大学大学院教授)の「福島原発と放射能汚染」という講演会。
 講演の中で山内さんがこの本を紹介し、調べましたがこの名著は永らく絶版、それが昨年復刻されました。

でも、正直私には大変に難しい本でした。それでも、理解できない所を気にせず、とにかく読めと鼓舞されたのは、ゴフマンさんの次の言葉(日本語版への序)、学者としての良心に満ちた言葉です。福島原発事故の後だけに心に響きました。

 広島・長崎の被爆者は、人類に対して比類のない重要なデータベースを提供してきた。彼らはこのデータベースを、彼ら自身と彼らの愛する人びとの高価な犠牲を基に提供してきたのである。人類が二度と再びこのようなデータベースを持つことのないよう祈りたい。世界中の医学者の最大の任務の一つは、人間に対するこの貴重なデータからありったけのものを学びとることである。この努力を少しだけでも怠ることは、人間としての責任を放棄することになる。

原発の工学的な問題は別にして、人間に対する放射線の影響、ここが一番議論のあるところ、その計測の仕方、そしてゴフマンさんが何度も繰り返し主張しているように、例えそれが低線量であっても人体に影響を与えること、細部は理解できなくとも、なんとなくわかりました。

分厚くて、ちょっと高価ですが、とても良い本です。ぜひ、ご一読を。








4.放射線被曝の歴史

■著者:中川保雄 ■発行所:明石書店 ■発行日:2011年10月20日 ■定価:2300円+税

神戸学生センターの「食品と放射能」学習会で購入しました。著者は21年前に48歳で早世した神戸大学教授です。
 この名著も絶版になっていたのですが、それが福島原発事故を受け昨秋に復刻、前出のゴフマンさんと同じ出版社です。

福島事故後、いろいろなことを見聞きするにつけ、頭にくるのがICRP(国際放射線防護委員会)という国際団体。
 何かにつけその見解を、例えば日本政府は金科玉条の如く使い、脱原発・反原発を邪魔する原発推進団体。一度きちんと勉強したいと思っていました。その最良のテキストがこの本。

ICRPは学者の集まりどころか、とんでもない原発のための政治集団。原発推進するためには、データの隠蔽、「リスク論」など黒を白と言いくるめる屁理屈をその都度に創作。
 これに対して、被曝した労働者や住民のため良心をかけてICRPと闘った多くの研究者たち。その歴史が書いてあります。前記のゴフマンさんもその一人。

中川さんの奥様は、宝塚で原発を含め市民運動をしながら亡夫の思いを継ぐ英文学者とか。いずれにしても、いい本まちがいなし、ご一読下さい。








5.空白の天気図

■著者:柳田邦男 ■発行所:文藝春秋 ■発行日:2011年9月10日 ■定価:790円+税(文春文庫)

すでに単行本では1975年に新潮社から、文庫本としても新潮社から1981年に出されていたのを、去年の大震災を受け新しくあとがきや解説を加えて文春文庫で出版されたもの。

1945年9月17日の枕崎台風のことを、そして先行する8月6日の広島被爆のことを、柳田さんは実によく調べて、声を拾って書いています。被爆の様子、台風被害の様子など実にリアルです。

私の問題意識は、広島の原爆による放射能被害に台風がどのように影響したのか、ということ。
 占領下の当時、とくに米国の核兵器開発、そのための被爆調査、そして報道や研究へ加えた統制などで、放射線研究について大事な部分がスポイルされてしまい、現在の福島事故をめぐる放射線の問題にも影響を与えています。

文庫本ですが、とても興味深い本です。ぜひ読んで下さい。








6.プルトニウム人体実験(マンハッタン計画)

■編:アルバカーキー・トリビューン 訳:広瀬隆 ■発行所:小学館 ■発行日:1994年12月1日 ■定価:1800円+税

福島の原発事故があり、原発や原爆の歴史、つまり被爆の歴史を知るにつけ、放射性物質の人体実験のことを知りました。ぜひ読みたくアマゾンで古本を入手。

1945年7月16日、世界初の原爆実験が行われたのが米国ニューメキシコ州アラモゴード。アルバカーキー・トリビューンはそのニューメキシコ州の地元紙で、取材をした女性記者アイリーン・ウェルサムは、このプルトニウム人体実験レポートでピューリッツァー賞を受賞しました。

マンハッタン計画は原爆開発計画として知られますが、その医学部門が放射能の人体実験です。米国全体で約1200人、そのうちプルトニウム注射された4歳の子どもから高齢者までの18人(ほとんどが死期間近と言われた人たち)、国策ネットワークによって米国各地の病院で人体実験を実施。

記者アイリーン・ウェルサムは、最初コードナンバーしかわからない患者たちを猛烈な取材で特定、死後墓を掘り返され遺骨のプルトニウム調査までされた人たちがどんな人生を歩んだか取材。合わせて、この実験に関わった悪魔のような医師・科学者たちをインタビュー。なにかしら、今の福島県立医大の2人の副学長が重なります。   

翻訳と解説をしている広瀬隆さんは、解説でこんな風に書いています。まさに、福島事故の時代を生きる私たちへの言葉です。

「放射能の安全基準と、広島・長崎〜人体実験のかかわりは、これからいよいよ高レベル放射能廃棄物の大量発生時代に突入しつつある私たちの子どもの世代にとってみれば、人生を左右する最重要の鍵となってきたと言ってもよい。これまで誰がその被害者になり、誰がそれを安全と言い、そして私たちは現在誰のデータに命を預けているのか(下線は 広瀬さん)」








7.ホットスポット(ネットワークでつくる放射能汚染地図)

■著者:NHK ETV特集取材班 ■発行所:講談社 ■発行日:2012年2月13日 ■定価:1600円+税

「ネットワークでつくる放射能汚染地図」というNHK・ETV特集番組は、原発事故の放射能汚染の恐ろしさを可視化した画期的な番組でした。

事故直後から始まった政府と東電の事故隠し、たとえば「ただちに健康に影響はない」という言葉にしても、放射能汚染を国民に欺く言葉でした。
 このETV特集番組は事実でこれを粉砕、放射能汚染の深刻さを映像で明示してくれました。

国営企業NHKの中でこの番組を作るに際して、ずいぶん軋轢があったようで、この本に一部紹介されています。
 しかし、若い科学者・木村真三さんの勇気と老科学者・岡野眞治さんの知恵、ETV取材班の行動力が、その自粛・萎縮する雰囲気を突破していきます。

Youtubeなど動画サイトで番組は見れるはず(ひょっとして削除?)、本とあわせてご覧下さい。  








8.ヒロシマ日記

■著者:蜂谷道彦 ■発行所:法政大学出版局 ■発行日:2003年7月15日(新装版) ■定価:2500円+税

新しい本ではありません。初版は1975年で、私が求めたのは2003年の新装版。
 著者は、自らも被爆した広島逓信病院の院長です。

被爆直後から9月中旬までの原爆症の症状について、壊滅的な被害を受けた逓信病院にずっと泊まり込んで診療・治療を行いつつ日記に。

それにしても、ボロボロになった被爆者たちが、ご真影(天皇の写真)を苦労しながら火災から避難させる場面、何とも言えません。「ご真影、ご真影」と叫ぶと、被爆者も兵士も道を空けたと言います。

デマが飛び交う中で、患者治療や遺体の解剖等から得た知見を、原爆症の症状としててまとめ、大書きし来院者に伝えようと奮闘。科学者として、人間としての立場が発揮されています。
 福島事故の被ばくを考える上で参考になります。ご一読を。  








9.平さんの天空の棚田(写真絵本・祝島のゆるがぬ暮らし)

■著者:那須圭子 ■発行所:みずのわ出版 ■発行日:2012年8月15日 ■定価:2000円+税

「みずのわ出版」は、もともと神戸にありました。代表の柳原一徳さんが故郷・山口県周防大島に帰り、事業継続している出版社。神戸時代の出版物『旅する巨人宮本常一』という本を購入して、こんな出版社が神戸にあるんだと知りました。

「神戸から周防大島に移転しました。都市といふやつを見限りました」と「みずのわ出版」のHPに。本の注文メールを送る際、そのことに触れると柳原さんから丁寧なお返事をもらいました。

さて、本の紹介。写真ジャーナリスト・那須圭子さんは、棚田の持ち主・平萬次さんんの亡くなった娘さんと奇しくも同い年。
 ですので、撮る側と撮られる側との、自然に親子のような暖かい関係がうかがえ、また本当に天空にあるような棚田の美しさ、それをたった一人で維持する厳しさを写真と文で紹介。

著者・那須圭子さんは、その写真集『中電さん、さようなら−山口県祝島 原発とたたかう島人』で賞をもらった経緯からわかるように、上関原発反対運動を撮り続けてきた人。
 本文中には「原発」という言葉は少しも出てきません。しかし、まさしく「ゆるがぬ」原発反対の本です。