<追記1−4> こんなに違う住宅再建の支援策

             (台風23号、新潟県中越地震などに対する国・自治体の支援策)






 1.被災者にとって大切なのは 

 今年2004年は、台風や地震で全国各地に大きな被害が生まれました。直後の1〜2週間はみんなで助け合えるにしても住宅が壊れたり被害を受けた被災者にとって、
@ いつまでに、どんな住宅が確保されるか(仮設住宅、住宅再建、応急修理など)
A 住宅再建の支援制度が被災者に使いやすく、わかりやすいこと 
B しかも、その情報が一人ひとりにきちんと伝わること
 
 阪神・淡路大震災を経験してみて、これらのことがとても大切だと私たちは思います。
 先日も、兵庫県の台風23号の被災者で「制度」の情報が伝わっていないため応急修理の費用がもらえない人の記事(朝日新聞04年12月8日朝刊)が載っていたところです。


 わかりやすい新潟県の『手引き』 
 そんな中、新潟県がHPでも公開しているパンフ『新潟県中越地震・被災者生活再建の手引き(住宅の確保に向けて)』(平成16年11月 新潟県中越地震災害対策本部の発行)は、わかりやすく良くできています。
 ちょっと紹介すると(原文そのものではなく、少し手を加え打ち直しています)

住宅確保の流れ(新潟県のパンフより)


地震で被災



住宅のある地域が生活できる状況(ガス、電気、水道、下水道などの
ライフラインが確保)となっている地域、避難勧告などのない地域の方



あなたの住宅の被害の状況はどうですか?



家屋の応急危険度判定などを参考に、自宅の状況を確認して下さい。

 危険   要注意   調査済   未判定 

※注 「未判定」という判定紙はありません。
※注 余震などでの2次災害発生の危険性を知らせるための「応急危険度
判定」と下記の「被災(り災)証明」とは必ずしも一致しません。
※注 できるだけ住宅の、とくに内部の壊れている場所の写真は必ず撮って
おきましょう。阪神淡路の時も、後日の「被災(り災)証明」をめぐ
るトラブルなどに役立ちました。
(注は吉田)




 危険  要注意 

・・・「被災(り災)証明」の交付を申請

 調査済  未判定 
・・・「被災(り災)証明」の交付を申請
    または「すぐ帰宅できるか」を判断



被災(り災)証明の結果



 全壊   大規模半壊   半壊   一部損壊 

※注 「大規模半壊」:阪神淡路の時にはなかった判定基準で、
地震による「損壊部分が延床面積の50%以上70%未満」
 なお、台風などによる浸水被害の判定基準での「大規模半
壊」とは、浸水被害が「延床面積の40%以上50%未満」
(注は吉田)



 全壊  大規模半壊  半壊 
・・・仮設住宅、賃貸住宅、空き住宅を希望
または新築・改築を希望

 半壊  一部損壊 
・・・新築・改築または修繕を希望

以上、新潟県のパンフの関連する頁を、だいぶん省略して紹介しています。





 2.問題の住宅再建の支援制度は? 

 さて、問題の住宅再建のための制度です。1995年阪神・淡路大震災の時は、住宅再建に支援することは「個人財産への支援はダメ」ということで国は支援しませんでした。しかし、その後の被災者たちの粘り強い運動で1998年ようやく「被災者生活再建支援法」がつくられました。
 でも、阪神淡路に遡及しないばかりか、制約が多く、使い勝手の悪い、不十分な制度です。
 そんな中、国の圧力をはねのけ鳥取県が鳥取西部地震で独自の支援制度をつくった時は、多くの被災者が喝采をあげました。
 さて、今度の台風23号や新潟の地震で住宅再建の支援制度はどうなっているのでしょうか?

 

  住宅再建のための国の支援制度は、次の通りです。
※ 支給状況(内閣府・03年度末まで PDF資料16K)

  1)応急修理制度(災害救助法で市町村が業者に委託して実施)
    <被災者の資格> 「半壊」の住宅で、仮設住宅や民間借り上げ住宅に入居しないこと
              また所得や構成員などの要件あり

  2)助成制度(被災者生活再建支援法 最大300万円)
     「生活再建支援金」(新築・購入は不可)で最大100万円 
     「居住安定支援金」(新築・購入の関係経費 04年4月より ※下表参照)で最大200万円
    <適用の要件> @災害救助法の適用市町村
            A全壊10世帯以上の市町村
            B全壊100世帯以上の都道府県
            C全壊5世帯以上で@〜Bに隣接する市町村
    <被災者の資格> 「半壊」以上の住宅で、所得や構成人員などで要件あり

  3)融資制度(建設資金の借り入れ支援)




※ 参考  国の助成(補助)の対象となる経費−「住宅本体」の再建に使えない問題の制度!
経費の区分その内容国が対象とする品目(じつに国は細かい!)
生活関係経費1.生活に必要な物品などの購入費または被災により故障・破損した物品などの修理費(付属品の購入や設置工事費を含む)

2.日常生活の本拠として使用する住宅への家財の運送費および移転のための交通費

3.住宅を賃借する場合の借家権の設定の対価(礼金)

4.災害により負傷し病気にかかった場合の医療費

5.その他市町村長が必要と認めた物品の購入費または修理費

※ 新潟県の制度では、国の対象にならない設備の取り替え、造作の補修なども対象に
1.物品関係
炊飯器 電子レンジ(オーブンレンジ) ガステーブル 冷蔵庫 掃除機 洗濯機 ミシン アイロン 扇風機 たんす ダイニングセット 食器用戸棚(茶たんすも対象) 室内用の照明器具 兄弟 寝具(世帯人数分) 自転車 電話機 テレビ ラジオ(CDプレーヤー類)

2.移送費関係
引っ越し専門業者または運送業者の荷役に対する対価 有料道路の通行量 レンタカー代(燃料費も対象) 運搬に必要な人件費

4.医療費関係
・医師、歯科医師、あんまマッサージ師、はり師、灸師および柔道整復師による治療および施術の費用
・上記の診療などを受けるため必要となる通院費、医師などの送迎費、入院入所に係わる部屋代、食事代などで通常必要なもの
・医薬品の購入費(薬事法に基づくもの)
・保健師、看護師および准看護師から受ける療養上の世話を受けるための費用
居住関係経費1.住宅を賃貸する場合の家賃

2.住宅の解体、撤去、整地費

3.住宅の建築・補修などに係わる借入金その他の債務に係わる利息および債務保証料など

4.仮設住宅または施設の利用料

5.住宅の改築補修費など

6.その他市町村長が住宅の賃借、補修、建設または購入に必要な諸経費として認めた経費
一部周辺事業の経費(解体撤去・整地費)ローンの利子・保証料 建築確認・完了検査など申請料 登記費用 仲介手数料 水道加入分担金

・解体撤去と整地費用などは支出予定額の70%が対象
・家賃は、月額2万円を超える部分が対象となり、最大50万円まで対象
・住宅の建築や補修などに係わる借入金その他債務に係わる利息および債務保証料については、利率から1%を引いて最大2.5%まで対象






【 新潟県の場合 】−生活再建支援策と応急修理制度で独自の上乗せ
 @ 概略

被害程度支援の区分支援額(国)支援額(県の上乗せ分)支援額(合計)
全壊生活再建支援最大300万円最大100万円最大400万円
大規模半壊生活再建支援最大100万円最大100万円最大360万円
応急修理制度最大 60万円最大100万円
半壊生活再建支援なし最大 50万円最大160万円
応急修理制度最大 60万円最大 50万円
一部損壊なし

※ 上記の表は、2人以上世帯で世帯収入500万円以下の場合

※ 新潟の場合、被害住宅の8割が一部損壊だという。雪国の頑丈な住宅構造
によるが、一部損壊を公的支援制度の対象外とする国の制度が問題。

※ 「応急修理制度」も仮設入居なしが前提。余震による避難勧告が続き、
また豪雪の危険性で自宅に戻れない人はどうすればいいのか?




 A 被害程度と世帯構成および収入別の支援額(最大額)


条件支援策世帯区分全壊大規模半壊半壊
世帯収入が500万円以下応急修理制度世帯区分なし160万円110万円
生活再建支援2人以上世帯400万円200万円 50万円
1人世帯300万円150万円37.5万円
世帯収入が500万円を超え700万円以下で
「世帯主が45歳以上または要援護世帯」
応急修理制度世帯区分なし160万円110万円
生活再建支援2人以上世帯200万円100万円 50万円
1人世帯150万円 75万円37.5万円
世帯収入が700万円を超え800万円以下で
「世帯主が60歳以上または要援護世帯」
応急修理制度世帯区分なし160万円110万円
生活再建支援2人以上世帯200万円100万円 50万円
1人世帯150万円 75万円37.5万円
それ以外応急修理制度
生活再建支援2人以上世帯100万円 50万円 50万円
1人世帯 75万円37.5万円37.5万円

※ 上記のうち「要援護世帯」とは、心神喪失・重度知的障害者、
1級の精神障害者、1〜2級の身体障害者などを含む世帯








【 京都府の場合 】−住宅建替・購入・補修で府独自の補助金


 京都府は、04年11月補正予算の中に20億円の予算額で、下記の補助金制度を府議会に提案しました。その提案説明には「台風23号により住宅などの被害を受けた府民が、早期に安定した生活を再建することにより、地域社会の崩壊を防止し、地域の活力を取り戻すため」とあります。とてもいいことです。

地域再建被災者住宅等支援補助金
対象者・府内の住宅に自ら居住し、被害を受けた者
・同一市町村内で住宅を建替、購入または補修して引き続き居住しようとする者
対象経費住宅の建替・購入・補修経費
被害の程度全壊大規模半壊半壊一部破損
床上浸水
補助対象の限度額400万円267万円200万円 67万円
補助限度額300万円200万円150万円 50万円
被災者の自己負担対象経費の1/4(残りの3/4は補助金が負担)
所得制限なし
特例措置高齢者や障害者などで低所得世帯については、20万円まで自己負担なし









【 兵庫県の場合 】−あくまで国に準じた県の補完制度
         −県独自の「被害認定マニュアル」は、功罪の両面?


@ 兵庫県の居住安定支援制度補完事業

 兵庫県は、国の居住安定支援制度の対象になっている世帯で、解体撤去に費用がかからないケース(家が丸ごと流出した場合? 地震直後の火災で全焼した場合?)やローン関係経費がないケースなどにより実際の支給額に格差が生じることを救済するため、国の法限度額と実際の支給額との差を穴埋めする県独自の「居住安定支援制度補完事業」を04年4月にスタートさせました。
 さらに、国の居住安定支援制度の対象とならない小規模の災害(全壊10世帯未満の市町村)で被害を受けた世帯に対しても国と同じ金額で救済する新制度も04年8月末から適用を始めました。

兵庫県の居住安定支援制度補完事業
法適用
災害
国の居住安定支援制度の対象世帯のうち、支給額が法限度額まで達しない世帯国の居住安定支援制度県単独支給額財源
全壊
(新築・購入)
最大200万円200万円
−(A)

10/10
大規模半壊(補修)最大100万円100万円
−(A)
法適用外災害国の居住安定支援制度の対象とならない小規模災害(全壊10世帯未満の市町村)で被害を受けた世帯県の被害区分県単独支給額財源
全壊
(新築・購入)
最大
200万円

2/3
市町
1/3
大規模半壊(補修)最大
100万円

※注 (A)は、国の居住安定支援制度による実際の支給額




 A住宅再建支援の追加対策(兵庫県 11月18日発表)

年齢・年収の緩和措置(予算額:7億円)
臨時的な支援措置(予算額:22億円)

区分年齢と年収の要件国の支援金
(生活再建
+居住安定)
兵庫県独自の支援金合計
(国+県)
世帯主の年齢世帯の年収
(万円)
年齢・年収の
緩和措置
臨時的な
支援措置
全壊60歳以上700超〜800以下150万円100万円100万円350万円
500超〜700以下
500以下300万円なし400万円
59歳〜45歳700超〜800以下なし200万円100万円300万円
500超〜700以下150万円100万円350万円
500以下300万円なし400万円
45歳未満700超〜800以下なし200万円100万円300万円
500超〜700以下なし
500以下300万円なし400万円
区分年齢と年収の要件国の支援金
(生活再建
+居住安定)
兵庫県独自の支援金合計
(国+県)
世帯主の年齢世帯の年収
(万円)
年齢・年収の
緩和措置
臨時的な
支援措置
大規模
半壊
60歳以上700超〜800以下50万円50万円75万円175万円
500超〜700以下
500以下100万円なし
59歳〜45歳700超〜800以下なし100万円75万円175万円
500超〜700以下50万円50万円
500以下100万円なし
45歳未満700超〜800以下なし100万円75万円175万円
500超〜700以下なし
500以下100万円なし
半壊年齢要件なし800以下なしなし50万円50万円
床上浸水
(10%以上20%
未満の損害割合)
年齢要件なし800以下なしなし25万円25万円
区分年齢と年収の要件国の支援金
(生活再建
+居住安定)
兵庫県独自の支援金合計
(国+県)
世帯主の年齢世帯の年収
(万円)
年齢・年収の
緩和措置
臨時的な
支援措置






B 県独自の「被害認定マニュアル」

 兵庫県の場合、もう一つ見ておかなければならないのが県独自の「被害認定マニュアル」です。住宅再建などの公的支援を受ける際に、大きな分かれ目となるのが全壊、大規模半壊など被害状況を行政が認定した「被災(り災)証明」です。阪神淡路大震災の時もこの認定をめぐって多くのトラブルが生まれました。
 現行の国の認定基準は、01年に改正された「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」(内閣府)ですが、以前の指針に比べて改善点もある反面、認定が厳格すぎて対象になるべき世帯が対象外と判定されるなど問題点が被災者から指摘されていました。
今年になって台風など災害が相次ぎ、10月末に内閣府が「弾力的運用」で被災者支援に万全を尽くすよう都道府県に求める通知を出しました。
 兵庫県は、この通知を「弾力的運用ではあいまい」として独自の「被害認定マニュアル」を作成し、台風23号などの被害認定に適用するよう県下の市町に配布しました。
 しかし、細かくみると被災者にとって評価できる面とそうでない面の両面を持ったマニュアルになっています。

被災者が評価できる面被災者が困る面
○水を吸ったり、泥の悪臭で使えなくなった「畳」などを国の指針より損傷割合を重く認定。

○国の指針で「柱」は、水流などの外力による被害が同時に発生していなければ認定部位から除外されていたが、兵庫県は長時間の浸水により「柱」が腐食し住宅へ構造的な影響を与えるとして損害認定に入れる。
●国の指針では、「屋根、床(各階)、外壁、内壁、天井、建具、設備(水回り)」(「柱」は左記の通り除外)の各部位について[損傷面積または損傷数]÷[全面積(延べ面積)または全部の数]×[損傷程度(各部位ごとに違う2種類の係数のいずれか:単位%)]という計算でそれぞれ損傷率を出し合計して判定。

●県のマニュアルでは、国指針のややこしく、現地では危険で実際には不可能な各部位ごとの判定作業を効率化するために、浸水部分の床面積÷延べ床面積を中心に損傷率を出す。
 たしかに作業は早くなるが、一方でこんな困ったケースも想定される。
 たとえば1階部分は全域浸水し柱も痛んだ住宅が、もし同じ面積の2階が無事であれば、「全壊」(50%以上)どころか「大規模半壊」(40%以上50%未満)にもならず、せいぜい「半壊」(20%以上40%未満)の認定になるケースも・・・。