こんな本、あんな本












1.毒ガス戦と日本軍
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:吉見義明

■発行所:岩波書店

■発行日:2004年7月28日(第7刷)

■2800円+税

04年発行ですので古い本かも。実は、昨年の防衛省汚職の一つが福岡県苅田港の遺棄毒ガス兵器だったこともあり、731部隊と同様の関心を持ちました。

日本の毒ガス兵器開発は、第一次大戦とロシア革命からで、対ソ戦を想定しての開発。
 最初に毒ガスを使用したのが1930年の台湾での霧社事件でした。日本の植民地支配に抵抗する人たちに催涙ガス弾だけでなく青酸投下弾も使用。

あの2・26事件でも使用検討されましたが、本格的に使用されたのが日中戦争で、恒常化します。「マルタ」と呼ばれる中国人などを使っての人体実験も開発過程で。

戦後の極東裁判では、731部隊の細菌兵器と同様、日本の毒ガス兵器も免責に。
 731部隊はその技術と引き替えでしたが、毒ガスは日本以上の能力を持つアメリカが自縄自縛を避けるためでした。

また、残された大量の毒ガス兵器は、どさくさに紛れて中国でも日本国内でも遺棄されました。
 この本は、日本の毒ガス兵器を詳細な資料とともに歴史の闇の中から明らかにしています。







2.山本五十六
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:半藤一利

■発行所:平凡社

■発行日:2007年11月23日

■1800円+税

疎開先の新潟県立長岡中学校(現・長岡高校)の同窓の先輩ということもあり、「つねづね山本贔屓(ひいき)を自称」してきた著者。
 しかし、贔屓の引き倒しにならず、暖かく、かつ冷徹に山本五十六という人物像に取り組んでいる本です。

もともと早い時期に『山本五十六の無念』(1986)という本を刊行、今回その後の書き物も併せて新編集したもので、著者からすれば完成版。

幕末、郷土の先達・河合継之助がそうであったように、山本五十六の育ち、海軍中央に対する姿勢について著者はこんな風に書いています。
 「一年の大半を曇天と雪の下で暮らす越後人は、鬱屈した想いを抱きつづける。・・・そしてこの思い詰めは、往々にして、一気に伝統や一般常識や統制や規律をとびこえて、自分本位のあり方を示す。」

対米戦争反対派の山本五十六が、「もし、やれといわれるなら、一年や一年半は大いに暴れてごらんにいれる」と、近衛首相に答えたのは有名。

しかし、同時に著者は「なぜ優柔不断な近衛公に、こんな勇ましくすらみえる曖昧な答弁をしたのか。その信念にもとづいて、あえて『対米戦争はやれません。やれば亡国です』といいきるべきであった」と、厳しく指摘。

本当は「モナコでバクチ打ち」になりたかった山本五十六。彼のことを知っている年代も、知らない若い人も、ぜひ一度呼んで欲しい本です。







3.『魯迅日記』の謎
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:南雲 智

■発行所:TBSブリタニカ

■発行日:1996年11月1日

■1748円+税

だいぶ前の本です。近所に最近できた中国専門の古書店カラト書房から求めました。著者は『魯迅全集』(学習研究社)の日記部分や『魯迅批判』(李長之・徳間書店)を翻訳した人。

「『日記』は生活の記録簿と見せかけた一つの作品」と、本書の冒頭に著者が書いています。
 母、本妻、パートナー(許広平)という3人の女性を中心に、彼女たちとの関係を魯迅日記を通じて解析しながら、天敵・封建制度との戦いぶり、そして魯迅の生活・苦悩として描いています。

仙台時代に始まる魯迅と日本人との交流については少しは本も読み、このコーナーでこれまでも紹介していますが、うっすらと承知していた魯迅と女性たちとの関係のこと、改めて知りました。結構、面白い本です。







4.ヒトラ・マネー
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:ローレンス・マルキン 訳:徳川家広

■発行所:講談社

■発行日:2008年1月9日

■1900円+税

第2次大戦中、ユダヤ人を収容所に集めナチスが国家の威信をかけてポンド偽札作り(ベルンハルト作戦)という話を聞いたことがありましたが、まさにそのことを書いた本。

目的は、敵国イギリスの経済攪乱。しかし、結果はポンド信用の下落など混乱がイギリス本国より外地で生じたようですが、経済に大打撃とはいかなかったようです。

偽札作りも困難なら、それを使用し流通させることの方がより難しかったみたい。
 だが、作業に従事したユダヤ人たちにとっては、偽札を早期に完成させることも、逆に完成できないことも、どちらもガス室送りとなり生死をかけた仕事ぶり。面白い本です。







5.職業犬猫写真家(猫とわたしの東京物語)
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:新美敬子

■発行所:日本カメラ社

■発行日:2006年7月25日

■1600円+税

新美敬子さんの猫の写真は、写真を通じて撮影者の気持ちが伝わります。寂しそうな猫、たくましく生きている猫、可愛がられている猫など、見えてくるのは撮影者の思いです。「猫とわたしの東京物語」というのが本の副題ですが、「東京の中にわたしを探したら猫がいた」と新美さんは書いています。

高校卒業まで両親なしの兄妹二人暮らし。高卒で名古屋の特定郵便局に就職したけれど、「千枚通しを逆手で握りしめる気持ちをおさめて」働いた局員時代。そんな時、お客さんにもらった子猫の写真を撮って過ごした休日の生活など。

ある時、亡くなった母の「育児日誌」を発見、その中に「猫を見てよく笑う本当にかわいい赤ちゃん」(新美さんのこと)と書いてあり、「天国からのメッセージ」と猫を撮り続ける気持ちを再確認したという。
 とにかく一度、猫の写真を見てください。何か伝わるものがあります。私のHPでも、「猫のランポーネ」と『猫ばたらき』を紹介しています。







6.松本清張への召集令状
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:森 史朗

■発行所:文藝春秋

■発行日:2008年3月20日

■890円+税

昭和18(1943)年秋、作家・松本清張へ教育召集令状が・・・。
 当時、北九州・小倉で朝日新聞西部本社の広告部意匠係(嘱託で広告の版下を書く仕事)で、両親・妻・子供3人の生活を支えていた33歳。召集令状は大変な衝撃だった。

この本の著者・森史郎さんは、文芸春秋で松本清張・担当として作家の兵士(衛生兵)時代の話を聞き、後の作品『遠い接近』をふまえ、作家の反国家権力の兆し・原点を描いている。

清張の召集令状にまつわる悪意と恣意性、そして入営後の下級兵士時代を描きながら、当時の国家権力と人間の関係を見ていく上で、とても面白い本です。







7.青野原俘虜収容所の世界(第1次世界大戦とオーストリア捕虜兵)
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:大津留厚 他

■発行所:山川出版

■発行日:2007年10月20日

■1500円+税

著者は神戸大学教授。神戸新聞の記事(青野原収容所の未公開写真400枚・5月29日朝刊)の関係でこの本を読みたくなりました。

兵庫県の小野市と加西市にまたがる青野原(あおのがはら)、ここに第1次大戦の時のドイツ・オーストリア人捕虜収容所があった話は知っていました。だが、詳細は知らず、かねて関心あり。

最初は姫路にあった収容所が青野原に移ったのが1915年。以来1919年12月まで約500名近くの捕虜たちは収容所生活を送ります。

当時の日本人は捕虜たちの知識、公徳心など「さすが文明国の人間」と感心し、一方で捕虜たちは日本の国際法遵守の扱い方を評価。
 しかし、この時期を最後に、日本人の戦争観、敵国民への感じ方が変わっていきます。まだ最後の「武士道」が残っていたのでしょうか?







8.クライマーズ・ハイ
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:横山秀夫

■発行所:文藝春秋

■発行日:2006年6月10日

■629円+税(文庫版)

「半落ち」など警察小説の第一人者の著者は、1985年日航ジャンボ機が御巣鷹山に墜落した時、地元の上毛新聞の記者。その当時の記者たちの思いが集結した読み応えある作品。
 単行本で出た03年に読んで、映画が公開されるので改めて文庫本を再読してみました。

あの時救出された女の子の映像もしっかり覚えています。墜落した飛行機で灘区の方も犠牲になりました。

まもなく、事故があった8月12日がまた来ます。7月5日に全国ロードショーの映画も是非見たいもの。







9.ヒロシマ原爆の絵日記(あの日を、わたしは忘れない)
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:河野きよみ

■発行所:勉誠出版

■発行日:2008年8月6日

■1800円+税

広島で被爆した2人の被爆者が、封印していたあの日の情景を脚本家の早坂暁さんが説得し絵日記にした作品。
 

作者の河野きよみさんが忘れられない光景として描いたのが、広島赤十字病院の玄関前の花壇に丸太のように積まれた中学生たちのおびただしい遺体。
 「人生で見た一番むごい光景」、「早う僕らのことを代弁してえやあ、とゲートルを巻いた中学生たちの夢を見る」と語る河野さん(朝日新聞)。

早坂暁さんが説得したもう一人の絵日記は、名柄堯さんの『あの日を、ぼくは忘れない』です。







10.甘粕正彦 乱心の曠野
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:佐野眞一

■発行所:新潮社

■発行日:2008年5月30日

■1900円+税

「目からウロコ」という本です。先に角田房子さんの『甘粕大尉』(筑摩書房)を読んでいたので、なんとなくそういう予感はしていましたが。  

読後の感想で言うなら、当時の軍部の謀殺であることは間違いありませんが、甘粕が大杉栄などを殺したかどうかは、限りなくシロ。軍法会議で有罪になり、恩赦とはいえわずか3年で釈放されるわけがありません。

とにかく、猛烈に広範囲に調べ、現存する多くの関係者に会った上で書かれています。
 また、殺害事件後の関係者のその後も調べてあり、中には三重県の旧大里村で村長になっていた人(もちろん戦前)もあり、とにかく「目からウロコ」です。







11.吉村 昭
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:川西政明

■発行所:河出書房新社

■発行日:2008年8月30日

■2400円+税

歴史もの、戦史もの、漂流ものなど数多くの作品で読者を引きつけた吉村昭さんが06年7月に亡くなってから2年。好きな作家の一人だったので早速この本を買いました。  

著者は吉村さんの作品をおおまかに分類、大部を占めるのは「逃げる」という分類。脱獄・脱走・逃亡もので、『長英逃亡』や『桜田門外ノ変』など。

熊ものを除いて、他の作家や自分が書いたテーマを重複しないというのが、吉村さんの流儀だったそうです。しかし、それを破ってでも書いて欲しいテーマ、例えば重慶爆撃や731部隊などは一度吉村さんに書いて欲しかった。

ガンで入院して最後はビールを吸い飲みに入れてもらって「ああ、うまい」と飲み、カテーテルの針を自分で引き抜いて自分で自分の死を決め亡くなったそうです。







12.「鎖国」という外交(日本の歴史9 新視点近世史)
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:ロナルド・トビ

■発行所:小学館

■発行日:2008年8月30日

■2400円+税

著者はイリノイ大学教授。「『鎖国史観』を超えて」というのがサブタイトル。私たちが通説と思っていた「鎖国」という考え方を別の切り口で解明してくれています。  

とくに興味を引かれるのが朝鮮通信使。日本各地に当時の伝承が残っています。対中国戦略、日本国内での権威付けなどから江戸幕府が朝鮮通信使を利用してきました。

著者も経験した「毛唐」という言葉の由来など、著者ならではの解明です。

図版が多く使用されて、歴史を平易に説明しています。







13.金融権力(グローバル経済とリスク・ビジネス)
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:本山美彦

■発行所:岩波書店

■発行日:2008年4月22日

■780円+税

11月の初め、本山美彦さんの講演「金融危機と私たちのくらし」(主催:原和美を国会に送る会)を聞きました。ちょっと前にこの岩波新書を少し読んでいたので多少なりとも理解に役立ちました。

前後しますが、経歴を見ると西灘小学校―原田中学と灘区に縁のある方、しかも、なんと原和美さんのファンだそうです。

金融権力を抑制するためユヌスのグラミン銀行、ESOP(イソップ・従業員持ち株制度)など著者は提起しています。
 これらについて私の評価は違いますが、いずれにしても金融危機という現在の状況下では刺激を与える議論であり、本書が金融危機理解のための好著であることは間違いありません。