こんな本、あんな本















1.パンとペン(社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い)
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:黒岩比佐子

■発行所:講談社

■発行日:2010年10月7日

■2400円+税

著者が昨年11月に52歳で急逝、話題となった遺作です。お正月に読みました。

昨年100年目だった大逆事件(1910年)。
 事件当時、直後に迎えた「冬の時代」=明治末から大正初めにかけての時期、灯火の絶えそうな社会主義はどう生き抜くか?
 何よりもパン(生活)を得るためペンを武器に、肩肘を張らず、ユーモラスで、しかし原則は外さずしたたかな「楽天囚人」堺利彦が設立。

一体どんな活動だったのか、どんな経営をしたのか、どんな人たちが出入りしたのか、ブログまであった古書マニアの著者が精魂傾けて、文字通り命を削って記した本書。新しい発見と読み応えがあります。








2.無縁社会("無縁死"32,000人の衝撃)
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:NHK「無縁社会プロジェクト」取材班

■発行所:文藝春秋

■発行日:2010年11月15日

■1333円+税

NHKスペシャルで放映され、今の日本社会を捉える言葉となった「無縁社会」。これとは別に昨年末から朝日新聞は「孤族」という特集をはじめましたが。
 昨年初めに放映された番組は、YouTubeで見ることができます。

阪神大震災から16年。直後から問題となった仮設住宅での「孤独死」、そして復興住宅で今も続く「独居死」。
 今から思えば、これは被災地だけの問題ではなくて、やがて日本全国で始まる「無縁社会」の兆しに警鐘を鳴らす出来事でした。

行旅死亡人の追跡、遺骨の受け取り拒否、「社縁が切れた時」「おひとりさま」など、日本中に増えている「ひとりぼっち」の生活の軌跡とその死を追いかけます。
 次の文章は、とても心を打ちました。他人事ではありません。

「姉が最後に留守番電話に残した声は、それが届くはずの弟はもう亡くなり、ただ都会の空にむなしくひびくだけだった。
『ピー。進、まだいないの?荷物(とうきび)送ったんだけど受け取れてないから、こっちに返してもらうようにするからね。ガチャッ。プー、プー、プー、プー』」








3.平民宰相 原敬伝説
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:佐高信

■発行所:角川学芸出版

■発行日:2010年3月15日

■1700円+税

佐高さんは、この本のコーナーでは『逆白波のひと・土門拳の生涯』を紹介しています。
 実は、3月17日の「佐高信と語る地方政治」という集会で灘区にお招きしています。

初稿は「夕刊フジ」に連載されていたもの。したがって、政党政治家・原敬のいろいろなエピソード.伝説を中心に博覧強記の佐高信さんがまとめています。

この本の一番最後、「おわりに」で佐高さんが紹介している中江兆民の指摘、今も有効性を持っています。

昔日の政党は 其争ふ所 薄弱にもせよ 主義
今日の政党は 其争ふ所 多少にもせよ 金銭
昔日の政党は 藩閥政府と相去ること 数千里
今日の政党は 国家人民と相去ること 数千里








4.昭和(戦争と平和の日本)
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:ジョン・W・ダワー

■発行所:みすず書房

■発行日:2010年2月25日

■3800円+税

この人の本は、このコーナーで『敗北を抱きしめて(第二次大戦後の日本人)』を紹介しています。

前述の本の時も思ったのですが、接ぎ木のように、チャンネルを変えるように歴史が変わっていくのではなくて、前の時代の中にその変化の兆し、或いは後に共通するものが含まれていること。

弁証法的?いや、むしろ私は言葉が適格かどうか別にして「ねぶか切り史観」とでも呼びたい独特の歴史観、日本史研究の「しつこい」考えが展開されています。  

去年の5月21日、朝日新聞が1頁にわたり「教授が歩んだ戦後日本」というインタビュー記事を掲載。同年6月にMITの教職を退くにあたっての記事でしたが、同氏を知る上でとても参考に。

専門の日本占領期で、吉田茂の評価、日本の戦時原爆研究など、とても興味深いものがあり、ご一読を。








5.三陸海岸大津波
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:吉村昭

■発行所:文春文庫

■発行日:2011年4月25日

■438円+税

最初は、中公新書『海の壁−三陸沿岸大津波』という原題で1970年に出版、そして今回の東日本大震災で文春文庫として。私が購入した本は1カ月ちょっとで第10刷でした。

明治29年(1896)の津波、昭和8年(1933)の津波、そしてチリ地震津(1960)と3回の津波の記録と証言をまとめたもの。読めば、今回の東日本大震災のテレビで見た映像がひとりでにオーバーラップします。  

地震の前に、前例にない大漁になるほど魚が海岸に押し寄せたこと、今回の地震前にも共通。過去に40メートルを超える津波、正確な比較はできませんが、今回もそれに近い高さの津波が押し寄せています。

吉村さんが書いた3つの事例と全然違うのは、今回は「原発震災」という「人災」が人びとを苦しめていること。
 いずれにしても、とてもトピックな本です。








6.樋口健二 報道写真集成
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:樋口健二

■発行所:こぶし書房

■発行日:2005年7月15日

■4200円+税

原発問題で、いま注目を集める写真家ですが、『売れない写真家になるには』という本を出した時代も…。
 早くから原発下請け労働者の被曝問題を追及していた、この写真家の名前は知っていましたが、写真集を買ったのは私も初めて。  

「日本列島'66−'05」というのが副題にあるように、公害・自然破壊・原発下請け労働者などの写真を通じて「日本の裂け目の奥底から、いのちの原石を掘り出してきた」(本の帯にある鎌田慧さんの言葉)。  

人生を変えたのはロバート・キャパの写真展、そして写真人生のスタートは四日市公害、力を置いたテーマは原発下請け労働者、と本書「あとがき」で書いています。

あえて「完全に写真界に背を向けた社会問題」をテーマにしたのは「時代に翻弄され、打ちひしがれてゆく人たちの多くが、私に『この悲しい姿を訴えて欲しい』と語る言葉に、切なる願いが込められているのを強く感じたから」(同あとがき)と。








7.鈴木茂三郎 (統一社会党初代委員長の生涯)
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:佐藤信(さとう・しん)

■発行所:藤原書房

■発行日:2011年2月28日

■3200円+税

今春、東大を卒業した23歳の著者。そんな彼が、とても「社会党らしい委員長」だった鈴木茂三郎さんをどんな風に描くのか、とても興味が。
 左右に分かれていた社会党が統一され、鈴木さんが委員長になったのが1955年。原発問題の始まりも1950年代からです。  

鈴木茂三郎という人物について、著者による集約的な表現は「結集と平和のイコン」。
 「結集」とは政党をバラバラにしないこと。「平和」とは「青年よ、銃を取るな」という有名な演説に代表される反戦の思想。鈴木茂三郎の功績と限界を示す見事なまとめです。  

しかし、社会主義だとか資本主義だとかいうことを、全て「イデオロギー」として一括りに横に置いてしまう現代政治学の考え方、たぶん著者の恩師(御厨貴・東大教授)のせいだと思いますが、踏み込み不足と思える箇所も。

しかし、社会党に何の関係もない若者が書いた本、「社会党論」の一つとしてお薦めです。








8.この人から受け継ぐもの
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:井上ひさし

■発行所:岩波書店

■発行日:2010年12月17日

■1300円+税

吉野作造、宮沢賢治、丸山眞男、チェーホフなどを語りながら、昨春亡くなった井上ひさしさん自身が受け継いで欲しいと思っている事柄など、話し言葉でとても読みやすい本です。

丸山眞男論で面白いところを少し引用。
 「(戦争責任論で)一方で天皇に大責任があると同時に、反ファシズム戦線を戦い抜けなかった共産党もまた、大局的な責任があるんじゃないかという、共産党がものすごく怒った論文です。戦争中に牢屋に入ってじっとしていて、戦争が終わって出てきて、大きな顔をしてはいけないんじゃないか」。  

 今の、原発問題についても、政府や東電など関係者の責任は当然糾弾されるべきですが、同時に,その電気を使ってきた私たち国民もある意味で反省がいるのではと重ねて考え、また意味深いのでは・・・  








9.吾輩は看板猫である
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:梅津有希子

■発行所:文藝春秋

■発行日:2011年3月10日

■952円+税

猫と人間の関わりを見る時、「看板猫」が一つの典型。忙しくて客商売のお店に鎮座する猫、「大事にされてるんだ」と、なぜか安堵します。

でも、この本に登場する看板猫たちは、すごい!
 開店から閉店までお店をお守りし、「営業部長」という名札と指定席もある酒屋の猫、ネクタイをつけてもらって店番する工具店の猫など、よく働きます。  

特別なセレブ猫はいなくて、ほとんどが雑種の、どこにでもいる猫、だから面白いのです。    








10 .ここが家だ(ベン・シャーンの第五福竜丸)
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■絵:ベン・シャーン 構成・文:アーサー・ビナード

■発行所:集英社

■発行日:2011年3月14日(第8刷)

■1600円+税

著名な画家・ベン・シャーンの連作The Lucky Dragonのことは知っていました。
 でも、在日アメリカ人の詩人、アーサー・ビナードが文章を付けて作ったこの本、まるで知りませんでした。

でも、この本を読むと、アーサー・ビナードが第五福竜丸事件をきちんと捉えているのがわかります。
 例えば、被曝後の無線長・久保山愛吉さんをこう書いています。

 「それでも 無線で『たすけてくれ』とたのむと なにを されるか わからない。もっと ひどいめに あわされてしまうからだ。水爆という 見てはいけなかった秘密を 見たのだから」「『久保山さんのことを わすれない』と ひとびとは いった。けれど わすれるのを じっと まっている ひとたちもいる」と。  

 さらに、絵本の最後の部分あたり、
「わすれたころに またドドド―ン! みんなの 家に 放射能の 雨がふる」
ひとりでに福島の今を想起させます。

今度は、アーサー・ビナードのエッセイ集『亜米利加ニモ 負ケズ』を読みたいものです。



<追記> 2012年1月23日の毎日新聞・「風知草」に、「福島には届かない絵」という見出しでこんな記事が出ていました。   








11.巨怪伝(正力松太郎と影武者たちの一世紀)
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:佐野眞一

■発行所:文藝春秋(文春文庫)

■発行日:2011年7月30日(第4刷)

■上1048円+税 下857円+税

国会で初代の原子力委員長でありながら、「核燃料」を「ガイネンリョウ」と読んだ正力松太郎。
 しかし、ある意味では中曽根康弘以上に黎明期の原発を牽引した人物として関心が…

関東大震災のあった1923年末、発生した昭和天皇(当時は皇太子)襲撃事件で警視庁の警備責任者を免官、それから正力と読売新聞との縁が始まる。
 戦後の公職追放と読売大争議、プロ野球創設、日本最初のテレビ放送開設、天覧原発(東京晴海の博覧会)、天覧試合(長島茂雄のサヨナラホームラン)と、間違いなく日本社会のフィクサーの一人。  

とくに、戦後の米国戦略に乗じて、掌握した新聞・テレビとメディアを武器に、原発推進に邁進したのも総理大臣になるため。だが、その夢はついに果たせなかった…

原発だけでなく、政治や社会の出来事の裏面を知る意味でも面白く、ご一読を。    








12.自分と子どもを放射能から守るには
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:ウラジミール・バベンコandベルラド放射能安全研究所(ベラルーシ) 
訳者:辰巳雅子 監修:今中哲二 

■発行所:世界文化社

■発行日:2011年10月15日(第2刷)

■800円+税

結論を先に、とっても良い本です。福島原発の事故以来、いろんな原発関連の本を読みましたが、これほど具体的で、これほど「放射能からぜったい子どもを守る」という熱意にあふれた本は少ない。

訳者が在ベラルーシの日本人女性なら、本のデザイン、イラスト、編集、レシピなど多くの日本女性が関わっていて、そうした女性たちの「ちょっとでも子どもを放射能から守りたい」という思いがビンビン伝わります。
 しかも、とてもかわいい、小ぎれいな仕上げの本。

福島の原発事故直後に日本は食品の暫定基準(現在来年に向けて厚労省で改訂作業中)を出しました。
 例えば飲料水はs当たり200ベクレルですが、この本に紹介されているベラルーシでは、なんとs当たり10ベクレル。そして日本にはない子ども向けの食品基準はs当たり37ベクレル。チェルノブイリの経験が生かされています。  

うらやましいのはベラルーシの放射能地域センターや市場の放射能測定器。不安を持つ人が線量測定することができます。
 また、この本を書いた研究所は、内部被曝を測れるホールボディカウンター搭載のバスで学校などを巡回しています。

所々に監修者の今中哲二さん(京大原子炉実験所助教)のコメントがあり、これも参考に。
 最後に、「訳者あとがき」で辰巳雅子さんはこう書いています。

「チェルノブイリ原発事故が起きたとき、多くの人が放射能の知識を持っておらず、線量計は起こるかもしれない核戦争のために郡部と研究機関が備えていただけで一般には販売されていませんでした。・・・<途中略>・・・
 しかし、21世紀の日本人には、20世紀のベラルーシ人ができなかったことがたくさんできるはずです。日本にも優秀な専門家や医師がいます。買おうと思えば線量計も自分の家族のために変えます。さまざまな情報ツールを介して放射能の知識を得ることもできますし、やろうと思えば被曝を防ぐさまざまな対策ができるのです」と。