こんな本、あんな本



       2014年・目 次





        1.原発とヒロシマ(「原子力平和利用」の真相)

        2.茅ヶ崎海岸の野良うさぎゴマ

        3.葉山嘉樹・真実を語る文学    





















1.原発とヒロシマ(「原子力平和利用」の真相)
■著者:田中 利幸 ピーター・カズニック ■発行所:岩波書店 ■発行日:2011年10月7日 ■定価:500円+税

岩波ブックレットの1冊。著者の田中利幸さんは、このコーナーで以前に紹介した『空の戦争史』の著者。またピーター・カズニックさんは、去年紹介した『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』の共著者です。

福島の事故以来、考えるようになったのは、「なぜ日本は、こんな原発依存社会になってしまったのか?」ということ。
 それは同時に、「被爆国日本で、原発推進はどのようなに行われたのか?」ということ。その一つのキーが、被爆地ヒロシマと原発の関わりでした。

アメリカの国会の中では、「広島に原発建設を」という話もあったようです。しかし、「Atoms for Peace」のアイゼンハワー政権も、さすがにこんな無茶な話には乗りませんでした。

しかし、アメリカはCIAを中心に、読売の正力松太郎や中曽根康弘・代議士を手勢に「日本原発化」の戦略を推進。
 とくに、広島・長崎の被爆があり、第5福竜丸被爆、放射能マグロと大事件が起きて、高まる原水禁運動や日本国民の核アレルギーをどう沈静化させるか。その一手が、本書でいう「広島ターゲット作戦」で、具体的イベントが1956年の「原子力平和利用博覧会」でした。
 あろうことか、この博覧会の会場として広島平和祈念資料館や平和記念館が使われ、そのため原爆関連の展示物は他所に移されたとか。

 前後しますが、前年の1955年に広島で開かれた第1回原水禁世界大会、そこでも「原子力の平和利用」が「広島アピール」の中に盛り込まれます。「核兵器=死滅 原子力=生命」という幻想に、被爆者も絡め取られていきます。
 原水禁運動で著名な森瀧市郎さんが、自己批判の上で「核と人類は共存できない」と表明するまでしばらく混迷が・・・

 60頁ほどの小冊子ですが、いろんな事を考えさせる好著です。











2.茅ヶ崎海岸の野良うさぎゴマ
■写真+文:内藤雅光 ■発行所:宝島社 ■発行日:2012年4月28日 ■定価:1000円+税

本の帯にもあるように、カメラマンの僕(著者)と、野良うさぎゴマのお話。「たわいもない!」と言えばそれまで。でも、何故か心引かれる写真集。

湘南・茅ヶ崎海岸に一人ぼっちで住んでいる野良の子うさぎ。砂まみれの姿はゴマをまぶしたようで、その写真を撮りに行くうちに著者と交流が始まります。

大きな転機は台風がやって来た時。「このままだと大波に飲まれてしまうかも知れない」と思い、ずぶ濡れのゴマをその日だけ家に連れて帰ります。

 翌朝、元の海岸にうさぎを返しに連れて行きます。さて、このあとはどうなったか?あとは本を読んでのお楽しみ・・・

写真にあるゴマの、ウソのない純粋な眼がとても素敵。今の世の中で、ある意味でみんなが求めているものなのでは・・・











3.葉山嘉樹・真実を語る文学
■楜沢 健 他著 三人の会編 ■発行所:花乱社 ■発行日:2012年5月20日 ■定価:1600円+税

戦前の大争議、神戸の川崎三菱争議にも縁のある葉山嘉樹、プロレタリア文学の中では一番好きな作家。「セメント樽の中の手紙」は、短編ながら今もインパクト、輝きを失っていません。

彼が転向したのか否か、葉山嘉樹関連のかなりの本に記述があります。
 でも、そんなことより紹介の本書で、「現在と葉山嘉樹」という視点での論評、楜沢健(くるみさわ・けん)さんの「だから、葉山嘉樹」(2011年福岡県みやこ町での講演録)がグッときました。

こんな風な講演だったそうです。この20年ほどの間に、社会主義が崩壊し資本主義の一人勝ちで、資本主義の暴走を止める政治的・思想的な拠点を失っってしまった。その20年間の帰結のひとつが「派遣切り」だと。

葉山嘉樹の「馬鹿にはされるが真実を語るものがもっと多くなるといい」という言葉は、「この20年間のわれわれのあり方にこそ向けられた言葉」だと。

そして、「・・・『おかしいことはおかしい』、『許せないことは許せない』、『受け入れられないことは受け入れられない』と言いつづけないといけないと思います・・・だから、葉山嘉樹なんです。葉山嘉樹はわれわれのものです。時代が葉山嘉樹を必要としています」と結んでいます。

ちょっと肩肘張った紹介になってしまいました。この他に初公開の資料など多数。ぜひご一読を。