こんな本、あんな本












1.「幻」の日本爆撃計画
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:アラン・アームストロング 訳者:塩谷絋

■発行所:日本経済新聞社

■発行日:2008年11月13日

■2000円+税

真珠湾攻撃の前に日本への先制攻撃があったことを聞いていましたが、それを米国人の弁護士が丹念に調べてまとめた本です。

中国から発進し日本の主要都市を攻撃する、時期は真珠湾攻撃の前、1941年11月という計画で、当時のルーズベルト大統領から承認済みの計画でした。

なぜ、実行されなかったのか?あとは本を読んでのお楽しみに。







2.幕末史
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:半藤一利

■発行所:新潮社

■発行日:2008年12月20日

■1800円+税

黒船来航から西南戦争までの歴史を、昨年12回にわたる半藤さんの特別講座でまとめたもの。当然、話し言葉で読みやすい本です。

山本五十六の新潟に疎開していたこともあり、「官軍の薩長史観に抗する」歴史をというのが、半藤さんのポリシー。随所にそれが出てきます。

龍馬、西郷、大久保と明治維新の立役者が次々と死んで、山県有朋と伊藤博文が残り、最後に統帥権の独立が出てくるあたり、この本の最終部分ですが、その先の日本を知るだけに、なんとなく薄ら寒さすら感じます。







3.金融危機の資本論
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:本山美彦・萱野稔人

■発行所:青土社

■発行日:2008年12月25日

■1400円+税

対談形式で今回の金融危機を歴史の上からも、日米関係の上からも解明しようというもの。本山さんの『金融権力』の兄弟版ともいうべき本。

いま私の関心は、80年前の世界恐慌・ニューディールと今回の金融危機との関係。第2次大戦後の米国、そしてその関係での日本の金融的な動きを見ていく上で、読みやすいこの本はとても参考に。

前に紹介した『金融権力』の時もそう思ったのですが、本書の結論部分は少し納得できない所が・・・。
 また、タイトルにある「資本論」との関わりが出てきません。
 まぁー、そういう細かいことは別にして、現下の情勢でぜひ読んでみるべき本です。







4.HIROSHIMA 1958
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■編者:港千尋 他 写真:エマニュエル・リヴァ

■発行所:インスクリプト

■発行日:2008年11月22日

■3500円+税

エマニュエル・リヴァ、その昔、上映された「ヒロシマ・モナムール」(邦題「二十四時間の情事」)という映画に、岡田英次とともに主演したフランス女優。
 彼女が撮影の間に撮った写真が昨年に写真集として日仏で出版。被写体は原爆が投下されて13年経った1958年の被爆地・広島の街と人々、とくに興味深いのは子どもたちです。

エマニュエル・リヴァは、東京でリコーフレックスというカメラフを買い、ロケ地・広島で撮影しました。
 首からぶら下げ、のぞき込んで写す二眼レフの特性もあってか、同じ低い目線から、とても素敵な笑顔の子どもたちを多く写しています。

エマニュエル・リヴァは、撮影から50年ぶり昨年暮れに広島を再訪問し、原爆ドームやロケ地を訪れました。
 「昔の家並みはなくなったが、広島の山の格好は同じ。二度と広島の街が暴力に遭わないよう願っています」と語ったそうです。(中国新聞より)







5.グローバル恐慌
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:浜矩子

■発行所:岩波書店

■発行日:2009年1月20日

■700円+税

まず、今回の「金融危機」を「恐れ慌てる」状態から「恐慌」と呼ぶべきと著者は指摘、まさにその通り。今回の多くの問題を分かりやすい例えで説明した良い本です。たとえば、問題の「債権の証券化」を「ツケの福袋」ということで。

恐慌をカネとモノが遊離し、その矛盾を均衡点=原点に回帰する資本主義の動きとして解明。1929年の恐慌は金本位制ゆえに起き、管理通貨制度では恐慌にならないと言われてきたが、今回やっぱり恐慌が起きた。それ故に著者はこれまでと区別し「21世紀型グローバル恐慌」と。

さて、これからどの方向へ行くのか、行くべきか?
 21世紀型資本主義には, たとえば九州で独自の地域通貨を持つなど「独自の通貨を持つ地域共同体が経済活動の軸となれば、あるいは、モノとカネの健全な形での再結合への展望が開けるかもしれない」と慎重な言い回しながら示唆。
 結論部分について考えは違うが、問題意識を刺激される本です。







6.「いのち」と帝国日本
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:小松 裕

■発行所:小学館

■発行日:2009年1月31日

■2400円+税

小学館『全集 日本の歴史』(全16巻)の一冊ですが、とても変わった、しかしとても良い本です。
 「日清・日露戦争で序列化された人びとの『いのち』」がテーマ。これまで通史の歴史本ではさらっと書き流されてきた問題を「いのちの序列化」という視点で、かなり詳細に掘り下げていますので、とても参考に。

そのテーマを少し紹介すると、旅順虐殺、足尾銅山鉱毒事件、米騒動、、日本のマイノリティ、台湾霧社蜂起、安重根などで、新しい歴史事実なども随所に触れてあります。

著者は、熊本大学教授。長年にわたり田中正造と足尾銅山鉱毒事件の研究に取り組み、朝鮮人史や女性史・ジェンダー論にも関心を持ってきた人だそうで、そういう人ならではの視点が感じられます。一度読んでみてはいかかが。







7.チャップリン暗殺
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:大野裕之

■発行所:メディアファクトリー

■発行日:2007年11月29日

■1600円+税

副題が「5・15事件で誰よりも狙われた男」。1932(昭和7)年、初来日したチャップリンを招き官邸で歓迎会を予定した日、5・15事件当日に殺された犬養首相。さて、チャップリンはどうやってその難を免れたのか?

1932年5月14日、チャップリンは神戸港第一突堤に上陸しました。その後、神戸の居留地→栄町→楠公さん→有馬道→大倉山公園→山の手の料亭「菊水」で一服→神戸駅から特急列車で上京というコースだったそうです。

この本は、チャップリンの来日前後の記録と同時に、彼と行動をともにした秘書の日本人・高野虎市の物語です。







8.大空襲310人詩集
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■編:鈴木比佐雄・長津功三良.山本十四尾・郡山直

■発行所:コールサック社

■発行日:2009年3月10日

■2000円+税

一昨年出版された『原爆詩181人詩集』に続く詩集で、対象は日本のみならずゲルニカ、重慶など世界に広がり、空襲・戦争体験がある詩人だけでなく、戦後の若い人の詩も集めてあります。

私の個人的な好みで言えば、「東京編」の「良子(よしこ)ちゃん」と「関西編」の「ヨシコ」でしょうか。他にも731部隊関連の「ネズミの行方」や「蚤の跳梁」など興味深い作品があります。

戦争や空襲についてばかり、310人分の詩を読むのはエネルギーが要りますが、しかし後世に伝えていくべき作品ばかりです。







9.日本を襲ったスペイン・インフルエンザ
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:速見融(あきら)

■発行所:藤原書店

■発行日:2006年2月28日

■4200円+税

約90年前、第一次世界大戦の戦死者の数倍の死者を出して世界中を恐怖に落とし込んだスペイン・インフルエンザ(スペイン風邪)。本書のサブタイトルも「人類とウイルスの第一次世界戦争」。
 奇しくも、今年、世界は新型インフルエンザに見舞われ、日本での国内初感染は神戸市灘区にある高校生からでした。(実はそれ以前に国内への「すり抜け」があったのですが…。)ちょっと高いけど読みたい本でした。

豊富な統計や当時の新聞記事など資料を駆使して、世界と日本国内での「発生・流行」を追跡。
 当時、日本での流行の固まり・母胎になったのが学校と軍隊。今回の新型もスペイン・インフルエンザも類型的には同じ「H1N1型」。このウイルス、90年前も今回も最初の流行時は敬老精神からか、狙うのは若者ばかりでした。

本書で初めて知りましたが、スペイン・インフルエンザで最大の被害地は京都・大阪・神戸の3市。
 とくに、神戸市は流行の「後期」で全死亡者(他の病死や事故死などを含めた数)中でインフルエンザ死者が38.5%と全国最高。なにやら因縁めきます。
 予想される今年秋口の流行、その対策の事などを考えても、示唆に富んだ好著です。







10.朝日新聞の秘蔵写真が語る戦争
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:朝日新聞「戦争が語る戦争」取材班

■発行所:朝日新聞出版

■発行日:2009年4月30日

■1800円+税

少し前に朝日新聞に連載された特集。戦前・戦中の掲載写真、不許可写真を、空襲から避難するため大阪の富士運送という会社の倉庫に保管され、事実上埋もれていた写真7万点から選ばれた写真集。

自分たちの暗号はとっくの昔に解読されているのに、国民には徹底して戦争の真実を隠蔽した軍隊と政府。また検閲でそれに従ってきた当時のマスコミ、これは朝日新聞も含めてです。
 それどころか逆に、積極的に戦意高揚の記事・写真をどんどん流しました。なにやら、今の情勢が似てきているようで、少し暗澹たる気持ちにも。







11.ボクのおすすめ本
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:鳴海妥(やすし)

■発行所:(株)ユニウス

■発行日:2009年6月15日

■953円+税

『ボクのおすすめ本』という本。著者の鳴海先生(お医者さんでも「先生」と心から呼べる人はそんなにいません)は、約30年前、みんなで灘医療生協(現在名は、ろっこう医療生協)を作った時からの信頼できる仲間。個人的にも何度も診察してもらいました。
医療生協スタートのみんな若かりし頃、真っ黒だった鳴海先生の髪が今や真っ白。その幾本かの原因は、私にも? まあ、年がいけば誰しもそうなのですが…。
さて、本のほうの紹介。専門の医学だけではなく、じつに幅広い分野の本を鳴海先生は医療生協の機関紙に紹介してきました。
 例えば、「周平と周五郎」。もちろん藤沢周平と山本周五郎のことですが、二人をこんな風に比較しています。「僕はやや周五郎派なのだけど、説教臭さのない周平が好きだという人も多いのです」と。
 さりげなく自分の意見は主張しつつ、それをむやみに押しつけないで、きちんと目配りする、鳴海先生の人柄をよく示している一文です。とにかく、一度ご覧を。 ろっこう医療生活協同組合に連絡をすれば入手できます。







12.半藤一利が見た昭和
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:半藤一利

■発行所:文藝春秋

■発行日:2009年9月1日

■980円+税

文藝春秋9月の増刊号という形で発行されました。半藤さんは、私のHPでも、『幕末史』『山本五十六』『ノモンハンの夏』など紹介、好きな作家の一人です。

東京の下町で悪ガキとして育った半藤さんが、あの東京大空襲でどんな経験をしたのか?半藤さんの上手なカットや版画とともに語っています。

面白いのは、「半藤さんが出逢えた、ブレなかった日本人」というコーナー。今村均や小沢治三郎などの軍人、永井荷風や小泉信三などの文人などの人物像を書いています。
 また、「昭和人物列伝」もなかなか興味深い特集。一度ご覧なったらいかかでしょうか。







13.空の戦争史
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:田中利幸

■発行所:講談社(現代新書)

■発行日:2008年6月20日

■740円+税

故・小田実さんの自宅書斎には子どもの時に体験した大阪空襲、爆弾投下で黒煙が舞い上がる大阪市の写真がかけられていたという。
 本書の著者はその小田誠さんと交流、その思想に多大の影響を受けたと、あとがきに。著者の視点は、空の上から爆弾を落とした側ではなく、落とされた側、殺害され被災・被爆した人たちを大事に、爆撃・空襲の歴史をまとめています。

繰り返し、繰り返し著者が指摘しその欺瞞性を暴いているのが、「精密爆撃」=科学的で人道的な爆撃?ということ。その考えは、各国の戦争において、そして現代の米軍のアフガン・イラク戦争にも流れています。

精密爆撃は、第二次大戦では「戦略爆撃」=無差別じゅうたん爆撃に変質?していく。ゲルニカ・重慶・広島そして現代という殺戮の連鎖です。
 米国内で「原爆使用は戦争を早く終わらせ、米国青年たちの命を救った」との世論が多いという。来日したオバマ大統領にぜひ聞いてみたいもの。







14.ザ・コールデスト・ウインター(朝鮮戦争)
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■デイヴィッド・ハルバースタム(著) 山田耕介・山田侑平(訳)

■発行所:文藝春秋

■発行日:2009年10月15日

■上下各巻1900円+税

この本の一つのテーマは、将軍マッカーサーと大統領トルーマンとの対立。
 中国との全面戦争(原爆使用もあり)に進もうとするマッカーサーを、「かれは地方総督、つまり、極東の帝王たらんとするのは困ったことだった。かれは、自分が総司令官たるアメリカ大統領配下の陸軍の一将軍に過ぎないことを忘れていた」とトルーマンは思っていたそうです。

また、「トルーマンはルーズベルトが将軍を神格化したことによく不満をもらし、ルーズベルトはバターンで日本軍にマッカーサーを捕らえさせるべきだった、などと内輪で話していたが、かれもまたマッカーサーとの対決を恐れ、神話の存続を許した」と、著者は断じています。

将軍と大統領の対立は、米国内での民主党と共和党・反共主義者たちとの対立にリンク。
 とうとうトルーマンはマッカーサーの更迭を決意。あの「老兵は死なず。ただ消えゆくのみ」の言葉を最後に将軍は政界入りをしようとしますが、アイゼンハワーにその道を絶たれます。

朝鮮での多くの戦闘場面、その一つひとつを資料や生き残った人たちからの聞き取りで再現し、中国軍との実際の戦闘がどうだったのかを詳細に記しています。ご一読下さい。