こんな本、あんな本













1.ゆきの日(on Christmas day)
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:菊田まりこ

■発行所:白泉社

■発行日:2009年10月20日

■1200円+税

著者の名作絵本・『いつでも会える』と一緒に去年のクリスマス、孫にやろうと買ったのですが、孫より私向けでした。神戸も寒い日が続く今日この頃、今年になってもう一度読んでみました。

お正月が近くなると必ず雪が降った鳥取での子ども時代。
 でも、神戸でもう何十年も雪なしのお正月を過ごしてきました。それでも、時々思います。「こんなに寒いのに、どうして神戸は雪が降らないんだろうか?」って…。

忘れかけていた子どもの時の想い出、「雪の日って楽しいものだった…」を思い出させてくれます。あとは読んでのお楽しみ。








2.大逆事件と知識人(無罪の構図)
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:中村文雄

■発行所:論創社

■発行日:2009年4月30日

■3800円+税

今年は、大逆事件100年にあたります。死刑や有罪になった被告たちの名誉回復や顕彰もぼちぼち。
 幸徳秋水の出身地・高知では数年前、観光振興に寄与したと「幸徳秋水を顕彰する会」が知事から表彰されたと本書で知りました。当の秋水はどんな顔をしたことか?

本書では、啄木、鴎外、漱石など明治の文学者と大逆事件との関わりを紹介しています。鴎外は権力(山県有朋)志向が強く不気味な二重人格(?)で、片や、啄木と漱石は、事件の被告たちにそれぞれ共感を…。

啄木の関わりは有名なので横に置き、漱石に関して。あまり漱石を読んでいない私には、漱石が資本論を、第1巻だけですが読んでいたこと、博士学位の辞退事件(これは知っていました)や軍国主義への警鐘など、大逆事件前後の漱石に関して興味深い指摘があります。ご一読を。








3.東京・ゲルニカ・重慶(空襲から平和を考える)
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■編:東京大空襲・戦災資料センター

■発行所:岩波書店

■発行日:2009年7月16日

■4400円+税

■DVD付き

東京や神戸の大空襲から今年は65年目。DVD付きの本書をお薦めします。
 無差別爆撃の連鎖・ブーメラン現象はゲルニカから始まって、まだ現代に続いています。
 最近よく登場する「抑止力」という概念も、裏返せば「核」の無差別攻撃能力ということです。

世界中の主な空襲が丁寧にコンパクトにまとめられ、そして東京空襲では多くの資料が掲載。DVDには、まだ見たことのなかった空襲関連の映像資料を、猫のポーポキが案内してくれます。

3月17日、神戸空襲合同慰霊祭が兵庫区の薬仙寺で催されました。記録する会の人たちが懸命に集めた空襲 犠牲者の名簿がまだまだ少ないこと、伝えていくべき資料や伝承がどんどん散逸していることなど、行政の姿勢も問われています。








4.世界の街角 猫さんぽ
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:新美敬子

■発行所:日本出版社

■発行日:2010年4月30日

■1200円+税

新美敬子さんの写真集が大好きで、ほとんど持っています。このHPでも『猫ばたらき』と『職業犬猫写真家』の2冊の写真集と写真「猫のランポーネ」を紹介しています。

新美さんのネコ写真に何故ひかれるのか?
 それは、ネコを通じて見えてくる撮影者のまなざし、そして同時に写っているネコと人間との関係、どちらも暖かさを感じ、とても好きです。
 かわいこちゃんネコ、スターのようなネコたちの写真集なら、いくらでもあるのですが・・・。

ネコ好きの人も、そうでない人も、どうぞご一読を。








5.戦争の家(ペンタゴン)
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:ジェームズ・キャロル 訳:大沼安史

■発行所:緑風出版

■発行日:2009年3月31日

■上:3400円+税 下:3500+税

結論から言って、とても良い本です。上下合わせ1300頁余と大作ですが、とても読みやすく、誤りを含めて素直に自らを語る姿勢に作者の良心を感じました。

1941年9月11日に起工式が行われたペンタゴン(米国の国防総省)へ、60年後の同じ日に旅客機が突っ込んでいく。
 その60年間のペンタゴンの歴史を、国防総省の将軍だった父との対立・愛憎を一つの軸に、戦争マシン化していく政治家、将軍たちを豊富なインタビューを交えて描いています。

原爆投下、水爆開発、冷戦とその崩壊など歴史の激動の中で、歴代大統領・国防長官・将官や文官たちは、戦争を、核兵器をどう考え、決断したのか、或いはしなかったのか、とても興味深い記述がいっぱい。

最近、プラハ演説、NPT再検討会議など核廃絶の機運がまた高まってきました。
 その昔、米ソ対立の真っ最中の時代に、フルシチョフ首相がソ連全土に再放送することを許可したケネディの演説(1963年6月)の一部を紹介します。

 「最後に残る真実とは、私たちは皆、この小さな惑星の住人であるという、最も基本的な絆で結ばれていることです。私たちは同じ空気を吸っているのです。私たちは皆で、私たちの子どもたちの未来を育んでいかねばなりません。私たちは皆、そうしてこの世を去っていく、存在なのです」
 ( J・F・ケネディ「平和のための戦略」  ※1963年8月部分核実験停止条約署名 ※同年11月23日暗殺)








6.長崎 旧浦上天主堂(1945−58 失われた被爆遺産)
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■写真:高原至 文:横手一彦

■発行所:岩波書店

■発行日:2010年4月8日

■1900円+税

NPT再検討会議のため旧・長崎浦上天主堂の被爆マリア像が訪米したニュースが報じられました。

でも、その長崎被爆の象徴だった旧・浦上天主堂は、なぜ解体されてしまったのか?かたや広島の原爆ドームは世界遺産として残されているのに…
※ YouTubeに「浦上天主堂が保存されなかった謎」(ザ・スクープスペシャル)の動画がありますので検索してみて下さい。

この写真集は、1945年の被爆から13年近く被爆地・長崎を見守り、とうとう解体された旧・浦上天主堂へのいわば鎮魂歌。

周りで無邪気に遊ぶ子どもたちと天主堂の無残な残がい(何故か空爆後のアフガンの廃墟の写真が重なります)、焼け焦げた被爆聖像が解体作業でロープを巻かれた姿など、切々と私たちに核廃絶と平和を訴えます。ご一読を。








7.猫は生きている
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■作:早乙女勝元 絵:田島征三

■発行所:理論社

■発行日:2008年3月(第86刷)

■1300円+税

東京大空襲をテーマにした有名な作品。でも、まだ読んでいなかったので、事務所近所の本屋さんに取り寄せてもらいました。

縁の下に身を寄せていた野良猫の母「稲妻」とその4匹の子猫と昌男くんの家族の物語。大空襲の中で人間と猫が逃げ回る情景は、とてもリアル。昌男くんをはじめ人間の家族はみんな死んでしまいます。
 でも、「稲妻」とその4匹の子猫たちは、迷子にならないようお互いのシッポをくわえ一列になって炎から逃げ助かります。

最後の場面、赤ちゃんと一緒に黒こげになって死んでいる昌男くんのお母さんを見つけ、「稲妻」と子猫たちがお母さんの真っ黒な顔をなめてやるシーンは、涙が止まりませんでした。
 絵本ですが、終戦65年目の夏に親子で読んでみて下さい 。








8.マンチュリアン・リポート(満州報告書)
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:浅田次郎

■発行所:講談社

■発行日:2010年9月17日

■1500円+税

人気作家・浅田次郎さんの『蒼穹の昴』シリーズの中の1巻。作家名よりもタイトル名に惹かれて買いました。テーマは、1928年(昭和3)3月の張作霖爆殺事件です。

治安維持法改悪反対のビラを配り逮捕された兵士が、事件に激怒した昭和天皇から特命を受け張作霖爆殺事件の真相を天皇にレポートするという、少し荒唐無稽な?ストーリーです。

シリーズ全体を読んでいませんので、とやかく言うのも気が引けます。
 しかし、本作ではちょっと、天皇や戦争、軍人の武士道などロマンの煙に巻きすぎて、本当に関東軍が中国で何をやったのか、このあと日本が戦争を拡大していったのは何故なのかなど、少し曖昧では…。

まあ小説なのに、そういう堅いことを言わず、張作霖の乗った列車(西太后が愛用したそう)、それを引っ張った機関車の独白など結構面白い部分もたくさんあります。








9.大逆事件(死と生の群像)
本の表紙著者・発行所・価格などひとくちコメント
■著者:田中伸尚(のぶまさ)

■発行所:岩波書店

■発行日:2010年5月28日

■2700円+税

大逆事件100年の年だったのでこのコーナーで2冊目。いろんな関連本が今年出たようですが、おそらく1、2の指折りに入るいい本だと思います。

「あとがき」にあるように、大逆事件の遺族やその周辺をめぐる旅を「道ゆき」と著者は名付け1997年から全国を回っています。事件後の堺利彦のように。
 そして、本文最後に書き記したのは「明治『大逆事件』は、世紀の舞台が回っても幕は下りず、未決のまま生きてあり続ける」と。

未だに、大逆事件に怯える人びと、口を閉ざしたままの地域がある一方で、新宮市や旧・中村市などのよう市議会や行政によって顕彰・名誉回復したりするところも出てきているようです。

本文中で、印象に残った箇所から1つだけ。

 「ドクトル大石さん(大石誠之助)は、貧乏人からは決してお金を取らなかった。お金のないことをいうのが恥ずかしいだろうからと、ガラス戸を三回トントントンと叩けばいいって。そんなドクトルさんが大逆事件なんてあり得ない」。・・・中上健次は77年に書いている。「私が、大逆事件の、大石誠之助を、歴史の人間ではなく生きた血の通った人間として思い描けるのは、そのトントントンと硝子戸を叩くエピソードによる。義父の母親、私から言えば義理の祖母が、そうやって硝子戸を叩いて、診察をしてもらった」と。